関税は消えたのに、なぜ蒸溜所は止まったままなのか——2026年、ジムビームが1年蒸留を休み、アイラの二軒が製造を一本化した理由
2026年7月、米国の対英ウイスキー関税がゼロに戻った。それでもジムビームの主力蒸溜所は止まったまま、ボウモアとラフロイグは製造体制を絞ったままだ。棚も空いていない。造り手が手を止めた理由を、輸出統計と熟成庫の数字から読み解く。
2026年7月24日、アメリカが英国産ウイスキーにかけていた10%の追加関税がゼロに戻った(米国、英国産ウイスキーの関税をゼロに)。2025年4月から1年以上、スコッチの最大市場に立ちはだかっていた壁が、一夜で消えたことになる。
ところが、造り手は手を止めたままだ。世界一売れるバーボンジムビームは、ケンタッキー州クレアモントの主力蒸溜所で2026年いっぱい蒸留を休んでいる。アイラ島のボウモアとラフロイグは、2026年2月に製造チームを一本化すると発表し、希望退職の募集に踏み切った。棚が空になっているわけでもない。むしろ、以前より買いやすい価格の一本さえある。
これらの判断はいずれも、関税がまだかかっていた時期に下されたものだ。とはいえ、壁が消えたあとも撤回された様子はない。逆風の一つが去っても手を止めているのなら、理由は関税ではないところにある。
2025年の数字は、たしかに厳しかった
まず、どれだけの向かい風が吹いていたかを確認しておく。スコッチウイスキー協会(SWA)が2026年2月に公表した2025年の輸出統計は、金額で53億ポンド(前年比マイナス1.8%)、数量で13億4,000万本(同マイナス4.3%)だった。
最大市場のアメリカ向けは金額9億3,300万ポンド(マイナス4%)、数量1億2,000万本(マイナス9.2%)。関税発効後の5〜12月だけを取り出すと、数量はマイナス15%まで落ちている。
ただし、犯人を関税だけに絞ると読み違える。関税のかからないフランス向けも数量でマイナス14%と大きく減っており、SWAは関税に加えて、地政学的な緊張、コスト高、3年で17%を超える英国内の酒税引き上げ、そして消費の冷え込みが重なった結果、「数十年感じたことのない重圧」が業界にかかっていると説明している。
一方でインド向けは金額で15%伸び、数量では2億2,000万本と最大の輸出先の座を守った。世界中で等しく売れなくなったのではない。落ちたのは、これまでいちばん高く買ってくれていた市場だ。
答えは、樽の中にある
供給側を見ると、話はもっとはっきりする。ケンタッキー蒸溜業者協会(KDA)によれば、州内で熟成中のバーボンの樽は2024年1月1日時点で1,430万樽、2025年1月1日には1,610万樽に達した。過去最多である。1年で180万樽増えた計算になる。
ここがウイスキーという商品の厄介なところだ。今日仕込んだ酒は、今日は売れない。バーボンなら数年、シングルモルトなら10年以上先の需要を見込んで樽を埋める。だから読みが外れても、その誤差はすぐには消えず、在庫として何年も倉庫に残り続ける。
つまり、いま蒸留が止まっているのは、売れないからというより、売る分がもう十分に寝ているからだ。実際ジムビームは、クレアモントで蒸留を止める一方、ボトリングと熟成庫は動かし続け、蒸留自体も同じ敷地の小規模蒸溜所とボストン(ケンタッキー州)の系列工場で続けている。造るのを休んでも、出荷は止まらない。
ディアジオがバルコネス、ジョージディッケル、そしてスコットランドのティーニニックで蒸留と樽詰めを2026年6月まで休止したときも、理由は「その拠点の生産量が予定より前倒しで進んでいるため」と説明されていた。関税が消えても、この事情は消えない。

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