なぜウイスキーの棚には「シガーモルト」という名の一本があるのか——葉巻に負けない酒を、蒸溜所がわざわざ用意する理由
ダルモアやトミントールには「シガーモルト」と名のついたボトルがある。葉巻に合わせることを念頭に構成された一本だ。なぜ蒸溜所は煙に負けない酒を用意するのか。組み合わせの理屈と、日本で試すときの前提を整理する。
ウイスキーの名前は、たいてい土地か、造り手か、熟成年数からとられる。ところが棚をよく見ると、そのどれでもない一本が混じっている。ダルモアの「シガーモルト・リザーブ」、トミントールの「シガーモルト」。ラベルに刻まれているのは、酒とは別の嗜好品の名前だ。
なぜ蒸溜所は、葉巻の名を冠したウイスキーをわざわざ用意するのか。その一本がどう組まれているか、なぜ「濃さ」が求められるのか、そして日本でこの組み合わせを試すときの前提までを整理する。
葉巻に合わせて組まれた一本
「シガーモルト・リザーブ」(44%)は、ハイランドの蒸溜所ダルモアの定番のひとつだ。アメリカンホワイトオークのバーボン樽に、マトゥサレムのオロロソ・シェリー樽、そしてカベルネ・ソーヴィニヨンのワイン樽を組み合わせて仕上げられる(それぞれの比率は公表されていない)。葉巻と合わせることを念頭に構成された一本とされ、それが名前の由来になっている。
スペイサイドのトミントールにも「シガーモルト」(43%)がある。こちらは通常の原酒に加えて希少なピーテッド原酒も含み、それぞれをオロロソ・シェリーのバット(約500Lの大樽)で熟成、あるいは後熟させて組み上げるという。
副題は「Parejo」。ブランドはこれを「スペイン語で partner(相棒)」の意として紹介している。もっとも本来の parejo は「均一な」「対等の」という意味で、葉巻の世界では胴がまっすぐな最も一般的なシェイプの呼び名でもある。いずれの含みも、この一本の立ち位置をよく表している。
二本に共通するのは、オロロソ・シェリー樽が使われていること。ここに、この組み合わせの理屈の一端がある。
なぜ「濃さ」が求められるのか
葉巻は、紙巻きたばこのように煙を肺へ入れず、口の中で転がして味わうのが一般的だ。つまり、吸っているあいだ口腔は煙に占領されている。この状態で繊細な酒を口に運んでも、香りの細部は流されてしまう——というのが、ペアリングを語るときによく持ち出される説明である。
だから合わせる側には、煙のあとでも輪郭が消えない「濃さ」が要る。ここでいう濃さは、アルコール度数の高さというより風味の密度に近い。実際、シガーモルトを名乗る二本はいずれも43〜44%で、度数そのものは標準的だ。
トミントールを擁するアンガス・ダンディーのマスターブレンダー、イアン・フォーティースは、オロロソ・シェリー樽でフィニッシュしたウイスキーが葉巻に合う理由を、「甘くて香ばしいフレーバーが、シガーのスモーキーな感触を美しく引き立ててくれる」と説明している(ウイスキーマガジン)。シェリー樽由来のドライフルーツやナッツ、チョコレートを思わせる厚みは、強い煙のあとでも戻ってくる数少ない風味だ。
合わせ方は、ひと通りではない
ひとつは、シェリーの甘さで包む方向。アベラワーの「アブーナ」のように、シェリー樽由来の濃度に60%前後の度数が乗った一本は、この考え方の極点にある。

このコラムの関連
関連するボトル


次に読む

ボイラーメーカーとは何か——ビールとウイスキーを「並べて飲む」一杯は、なぜ世界中の酒場にあるのか
ウイスキーのショットとビールを組み合わせる「ボイラーメーカー」。名前が定着したのは1930〜40年代のアメリカ。同じように混ぜずに並べる飲み方は、スコットランドの「ハーフ・アンド・ア・ハーフ」やフィラデルフィアの「シティワイド」など各地にある。歴史と合わせ方を整理する。

なぜハイボールは唐揚げに合うのか——「炭酸が脂を流す」は本当か。渋みと脂の「綱引き」から読み解く
唐揚げにハイボールが合う理由は「炭酸が脂を洗い流すから」とよく言われる。だが、それを直接確かめた研究は見当たらない。確かめられているのは、渋みが脂のぬるっとした感覚を打ち消すこと。炭酸・度数・苦み・冷たさから、あの相性を分解する。






