なぜクライヌリッシュは「蝋の味がする」と言われ、愛好家に偏愛されるのか——洗ってはいけないタンクの底と、隣で眠り続けたブローラ
ウイスキーの世界で「ワクシー(蝋っぽい)」といえばクライヌリッシュ。その個性は、洗い流さずに残されたタンクの底から生まれた。北ハイランドの蒸溜所と、隣で38年眠り続けたブローラの物語。
ウイスキーの味を語る言葉に「ワクシー(waxy)」というものがあります。日本語にすれば「蝋(ろう)っぽい」。消したばかりの蝋燭、蜜蝋を塗り込んだ革のコート、あるいは指先に残るリップクリームのような、香りというより質感に近い感覚です。
この言葉が、ほとんど一つの蒸溜所の代名詞になっている。北海を見下ろす丘に建つ、クライヌリッシュ(Clynelish)です。
なぜ蝋なのか。答えは意外にも、蒸溜所の中にある「洗ってはいけないタンクの底」にありました。
洗ったら、あの味が消えた
ウイスキーの蒸溜では、まず初留でアルコール度数の低い液体(ローワイン)を得て、それを再留して中心部分だけを取り出します。このとき本体から切り分けられる最初と最後の部分——フォアショッツとフェインツ——は廃棄されるのではなく、専用のタンクに貯められ、次の蒸溜に戻されます。
どの蒸溜所でも、このタンクの底には油分がゆっくりと沈殿していきます。普通は年に一度の稼働停止期間(サイレント・シーズン)に、設備一式とともに洗い流されるものです。
クライヌリッシュでも、あるときそれを綺麗に洗った。すると——あのワクシーな個性が消えてしまったのです。
タンクの底に溜まっていた「汚れ」こそが、クライヌリッシュをクライヌリッシュたらしめていた。以来この蒸溜所では、清掃時に沈殿物をいったん取り出し、洗い終わったあとでまた戻すという、およそ普通ではない工程を踏むようになったと伝えられています。掃除をしないのではなく、掃除をしても「あれ」だけは捨てない、ということです。
親会社ディアジオの製造担当者も、クライヌリッシュではローワインの受けタンクとフォアショッツ/フェインツのタンクが分かれており、液体がそこに長く留まることでワクシーさが蓄積していく、と説明しています。偶然の産物が、いつのまにか設計思想になった蒸溜所なのです。

蝋は、時間が経つほど艶になる
ワクシーな原酒は、若いうちはやや無骨に感じられることがあります。ところが樽の中で年を重ねると、この質感が独特のとろみと持続力に変わっていく。舌の上に膜が残り、余韻がなかなか消えない。
だからクライヌリッシュは、ブレンデッドウイスキーの世界で長く重宝されてきました。派手さで主張するのではなく、複数の原酒を束ねたときに「骨格」と「口当たりの厚み」を与える役割です。
とりわけジョニーウォーカーとの縁は深く、ゴールドラベル リザーブでは中核を担う原酒として語られます。ジョニーウォーカーを飲んで「なめらかで、後を引くな」と感じたことがあるなら、その感触の一部はおそらく、この北の蒸溜所から来ています。
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Clynelish Select Reserve
🏴 スコットランド ・ クライヌリッシュ蒸留所 ・ シングルモルト ・ NAS ・ 56.1%


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