なぜ直火焚きの蒸留所のウイスキーは香ばしく重厚になるのか——直火蒸留とスチーム加熱の違い
モルトウイスキーの蒸留器を熱する方法には「直火」と「スチーム」がある。なぜ直火の蒸留所は香ばしく重厚な酒質になりやすいのか、そのしくみと、いま直火を守る蒸留所を解説する。
同じ大麦から、なぜ「重い酒」と「軽い酒」が生まれるのか
ウイスキーの個性は、樽やピートだけで決まるわけではない。じつは蒸留器(ポットスチル)をどう熱するかという、目立たない工程も酒質を大きく左右する。加熱方式には大きく分けて「直火焚き(直火蒸留)」と「スチーム加熱(間接加熱)」の二つがあり、同じ原料・同じ形のスチルでも、この違いだけで味わいの重さが変わってくる。この記事では、直火の蒸留所がなぜ香ばしく重厚な酒になりやすいのか、そのしくみと現状を見ていく。
直火とスチーム——熱の伝わり方がまるで違う
直火焚きは、スチルの真下で炎を焚いて銅の釜を直接あぶる方式だ。かつては石炭、現在はおもにガスが使われる。炎そのものは1000℃を超え、釜の底は局所的に非常に高温になる。
いっぽうスチーム加熱は、スチルの内部に通したパイプやコイルに蒸気(120℃前後)を流し、釜を内側からじんわり温める。20世紀の後半以降、温度管理のしやすさからこちらが業界の主流になった。
ポイントは「熱の強さと均一さ」だ。スチームは穏やかで均一。直火は強烈で、釜の底に熱の偏り(ホットスポット)が生まれる。この差が、酒質の差につながる。
なぜ直火は「香ばしさ」を生むのか
醪(もろみ=発酵液)には、酵母や麦由来の固形分がわずかに残っている。直火で釜の底が高温になると、これらの成分が銅の内壁に触れて焦げるように反応する。パンやコーヒーを焼いたときに香ばしさが立つのと同じメイラード反応だ。これによって、より重く、ローストしたような、肉厚とも表現される香味成分が生まれやすくなる。
ただし焦げつきが進みすぎると雑味になるため、直火のスチルにはランマーと呼ばれる装置が備わる。銅の鎖を釜の底で回転させ、固形分がこびりつくのを防ぐ仕掛けだ。直火焚きが「手のかかる製法」と言われるのは、この管理の難しさゆえでもある。
多くの蒸留所が直火をやめた理由
これほど個性が出るなら全部直火にすればよさそうだが、話は逆に進んだ。直火は火力の調整が難しく、バッチごとのブレも大きい。焦げつきや安全管理の手間もかかる。均一で再現性が高く、効率もよいスチーム加熱が普及するのは自然な流れだった。たとえばマッカランは2000年代にスチームへの転換を進め、2010年ごろに完了。新蒸留所もスチームを採用している。
いま直火を守る蒸留所
スコットランドで直火焚きを続ける蒸留所は、いまや数えるほどしかない。代表格がグレンファークラスで、全基をガスの直火で焚き、シェリー樽由来の甘さと相まった重厚な酒質で知られる。1980年代初頭に一度スチームを試したものの、ニューメイクの個性が損なわれたため直火に戻した、という逸話も伝えられる。

Glenfarclas 105 Cask Strength
🏴 スコットランド ・ グレンファークラス蒸留所 ・ シングルモルト ・ NAS ・ 60%
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