なぜ空になったウイスキー樽は、捨てられずに「次の仕事」へ回されるのか——タバスコを仕込み、ビールを育て、最後は煙と家具になる木の話
ウイスキーを育て終えた樽は、そこで捨てられるわけではありません。何度も詰め替えられ、削り直され、そこから先はタバスコの仕込み樽、ビールの熟成樽、スモーキングチップ、家具の木材へと道が分かれます。1本の樽が使い切られるまでをたどります。
蒸溜所の熟成庫から、中身を抜かれた樽が転がり出てくる。この樽は、そのあとどこへ行くのでしょうか。
答えは、ほとんどの場合「捨てられない」です。ウイスキーの樽は消耗品でありながら資産でもあり、ウイスキーの仕事を終えたあとにさえ別の役目が待っています。この記事では、1本の樽が本当に使い切られるまでの道のりを追いかけます。
まず、ウイスキーの中で何度も生き直す
スコッチの熟成に使われる樽は、たいてい一度きりでは終わりません。1本の樽にウイスキーを3〜4回詰めるのが一般的だとされます。ある業界解説では、いちばん働きのいい1回目は4〜5年と短めで、詰め替えたあとは1回あたり8〜12年が平均とされます。単純に足していくと、樽は数十年を熟成庫で過ごすことになります。
風味を出し切った樽にも、まだ続きがあります。内側を削って新しい木肌を出し、もう一度焼き直す「再生(リジュビネーション)」を受ければ、さらに3〜4回の熟成に耐えることもあるとされます(なぜ樽の内側は焼かれるのか)。良い樽なら80年から100年——オークの木が育つのに要する時間と、だいたい同じだけ働くと言われます。
それを支えているのが、樽を手で組む職人たちの産業です。スペイサイド・クーパレッジは、年に10万樽を超えるバレル・ホグズヘッド・バット・パンチョンを製造・修理していると紹介されています。新しく作るだけでなく、直して回すことが仕事の中心にある。
なぜそこまで直すのか。バーボンが新樽しか使えないという規定のおかげで中古樽は市場に出てきますが(なぜバーボンは新樽でなければならないのか)、買い替えれば費用はかかり、質のいい樽ほど代わりがききません。とくにシェリー樽は、いまはウイスキーのためにわざわざシェリーを注いで仕立てるもので、数が限られます(なぜシェリー樽は「シーズニング」されるのか)。
タバスコの原料は、ウイスキー樽の中で最長3年待つ
そしてウイスキーの仕事を終えた樽には、業界の外から声がかかります。もっとも有名な引き取り手が、タバスコです。
マキルヘニー社の公式サイトによれば、同社は「各地の蒸溜所から集めた、役目を終えたホワイトオークのバーボン樽」を使い、唐辛子のマッシュを最長3年寝かせます。受け入れるときは樽を開け、内側の炭化層を削り落として洗い、ステンレスのたがで組み直す。寝かせ終えたマッシュはビネガーと合わせてさらに28日置かれ、ようやくあのソースになります。
樽の使い方も徹底しています。倉庫にあるのはおよそ7万3,000本、毎年2万〜2万2,000本が現役に投入され、1本あたり平均15〜20回、35〜40年ほど使われるとのこと。倉庫には80〜90年ものの樽も残っているそうです。ウイスキーの側から見れば、数回で「疲れた」と判断された樽が、そこから40年近く働くことになります。
なお、テネシーのジャックダニエル蒸溜所との長年の取引を伝える報道もありますが、公式の樽解説は「バーボン樽」と総称するだけで、銘柄名を挙げてはいません。そもそもジャックダニエルはバーボンを名乗らないテネシーウイスキーです(なぜテネシーウイスキーは炭で濾すのか)。出どころを断定するのは、少し早い話でしょう。
ビールは、樽に残った記憶を借りる
もうひとつの引き取り手が、ビールです。スコッチやバーボンを寝かせた樽にビールを詰めて数か月熟成させる「バレルエイジドビール」は、木の成分と前の中身の香りを借りて、深みのある一杯に仕上げます。日本では樽の入手や置き場所の確保が難しく、手がける造り手はまだ多くありませんが、国内の蒸溜所から樽を譲り受けて仕込む例が出てきています。
面白いのは、この貸し借りが一方通行ではないことです。ウイスキー側がビールに樽を預けることもある。グレンフィディックの「IPAエクスペリメント」は、モルトマスターのブライアン・キンズマンがスペイサイドの醸造家セブ・ジョーンズと組み、この企画のために新しくIPAを造ってもらい、そのIPAで慣らした樽でウイスキーを仕上げた一本です(カスクフィニッシュ)。
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