なぜロッホローモンドは、ひとつの蒸留所で10種類以上の原酒を造り分けられるのか——首がまっすぐなスチルと、大麦麦芽100%なのに「グレーン」と名乗る一本
全英オープンの公式スピリッツとして知られるロッホローモンド。この蒸留所の本当の変わり種は、首がまっすぐなポットスチルと、大麦麦芽100%なのに「シングルグレーン」を名乗る一本にある。
ゴルフの全英オープンを中継で見ていると、コース脇の看板や表彰式のテーブルに「LOCH LOMOND」の文字が映り込むことがある。2018年からこの大会に公式スピリッツを提供している、スコットランドのウイスキーブランドだ。
ただ、この蒸留所が本当に変わっているのは、スポンサーの座ではない。中身の造り方である。
専門メディアの取材によれば、ロッホローモンド蒸留所はひとつの敷地の中で11種類(モルト由来10とグレーン1)ものニューメイクを造り分けているという。しかも「原料は大麦麦芽100%なのに、シングルモルトとは名乗れない」一本まで世に出している。
なぜそんな芸当ができるのか。鍵は、首がまっすぐなポットスチルと、半世紀かけて継ぎ足されてきた蒸留設備、そしてラベルの言葉を決めている規則にある。順に見ていきたい。
首が「まっすぐ」なポットスチル
モルトウイスキーのポットスチルは、ふつう丸い胴から白鳥の首のように細く曲がった管が伸びている。スワンネックと呼ばれる形だ。ロッホローモンドにも、この伝統的なスワンネックのスチルがある。
だが同じ蒸留棟に、首がまっすぐな円筒のスチルも並んでいる。しばしば「ローモンドスチル」と呼ばれるが、専門メディアはむしろ「そう呼ばれがちだが厳密には別設計」と注記して紹介する。可動式の仕切り板を備えた本来のローモンドスチルとは違い、ここのスチルは板が固定されたハイブリッドだからだ。
まっすぐな首の内側には、穴の開いた銅の板——整流板——が仕込まれている。取材記事によれば、その枚数は初留のウォッシュスチルに1枚、再留のスピリッツスチルに17枚。上がってきた蒸気は板にぶつかるたびに一部が凝縮して下に戻り、また熱せられて上がっていく。この戻る流れを還流という。
還流が強いほど、重く油っぽい成分は上まで届きにくくなり、軽く澄んだ成分だけが選ばれて出ていく。スチルの形は、本来なら蒸留所ごとに動かせない前提条件だ。首の長さも角度も、建てたときに決まってしまう。
ロッホローモンドも例外ではなく、整流板は固定されている。この蒸留所が選んだのは、一基の形を変えることではなく、形の違う器を何種類も持つことだった。
そのストレートネックでは、板1枚が小さな蒸留段として働くため、2回の蒸留でも三回蒸留に近い精製度が得られると説明される。首の上部には冷たい水を通すリングも巻かれていて、還流をさらに強められる。
そのうえで造り分けを生んでいるのは、どちらの形のスチルを使うか、どこからどこまでを製品用に取るか、冷却リングをどう使うか、ピートを焚いた麦芽を使うか——といった設定の組み合わせだ。マスターブレンダーのマイケル・ヘンリーは、ストレートネックのスチルだけで7種類の酒質を取り分けると説明している。
「何種類造れるのか」の答えが、資料によって違う
面白いのは、この蒸留所が造り分けられる原酒の数について、資料ごとに答えが違うことだ。
公式サイトの説明は、読むページによって5種類とも8種類とも取れる。一方、専門メディアの取材記事では11種類(モルト由来10、グレーン1)と紹介される。
これは誰かが間違えているというより、造り分けを連続的に調整できることの裏返しだろう。スチルの形、カットポイント、ピートの有無。組み合わせは掛け算で増えていく。本来は切れ目のないグラデーションを、便宜上いくつかに区切って数えている、という状態に近い。
その幅は、銘柄名の違いとして商品にも表れている。同じ敷地から生まれた原酒に、この蒸留所は別々の名前をつけて売っているのだ。軽やかで柑橘のようなインチマリンと、煙をまとったインチモーン。並べて飲むと、産地違いのモルトかと思うほど印象が離れている。

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