なぜグレーンウイスキーはこれほど軽やかでクリーンなのか——連続式蒸留の秘密
知多やカフェグレーンを口にしたときの、あの澄んだ甘さと軽やかさ。同じ穀物の酒なのに、なぜグレーンウイスキーはモルトより格段にクリーンなのか。その鍵は「連続式蒸留」という装置の構造そのものにある。
グラスに注いだ知多やニッカ カフェグレーンは、シングルモルトとは明らかに肌触りが違う。重さや脂っぽさが薄く、バニラや蜂蜜のような澄んだ甘さがすっと通り抜けていく。同じ「穀物を発酵させて蒸留した酒」でありながら、なぜグレーンウイスキーはこれほど軽やかでクリーンなのか。その答えは香味の足し算ではなく、酒を蒸留する装置の構造そのものに隠れている。
バッチ式のポットスチルと、流し続けるコラムスチル
モルトウイスキーを生むポットスチル(単式蒸留器)は、いわば大きなヤカンだ。発酵液を一度に仕込み、加熱して蒸気を集め、空にしてまた仕込む——このバッチ作業を繰り返す。一回の蒸留で得られるアルコール度数はさほど高くなく、スコッチでは通常二回蒸留してもニューポットは70%前後。度数が低いぶん、穀物由来の重い香味成分(コンジナー)が多く残り、あの厚みのある酒質になる。
対してグレーンウイスキーを生むのは連続式蒸留器、いわゆるコラムスチル(カフェスチル)だ。これは背の高い塔で、内部は多数の穴あき棚で仕切られている。塔の上から発酵液を絶えず流し込み、下から蒸気を吹き上げると、塔の各段でアルコールの蒸発と凝縮が何度も繰り返される。ポットスチルの蒸留を一本の塔の中で連続的に、しかも何十回分も重ねているようなイメージだ。装置を止めずに酒を「流し続けられる」ため生産効率が高く、しかも一度の通過で90〜95%という非常に高い度数の澄んだスピリッツが得られる。
高い度数がもたらす「引き算」
軽やかさの正体は、この高い蒸留度数による「引き算」にある。アルコール度数が高く抽出されるほど、沸点の高い重たい香味成分は取り残され、最終的なスピリッツにはクリーンで軽い成分だけが濃く乗る。原料も、グレーンウイスキーはトウモロコシや小麦を主体とし(酵素源として少量の大麦麦芽を加える)、もともと穀物の甘みに寄った素性を持つ。そこへ高度数蒸留による純化が重なることで、バニラや蜂蜜、コーンを思わせるあの澄んだ甘さが際立つのだ。
この装置を1830年に実用的な形で特許化したのが、アイルランドの元収税官エニアス・コフィーだった(数年前にロバート・スタインが原型を作っており、コフィーはそれを大きく改良した)。安く大量にクリーンな酒を生めるコフィーの発明は、やがてブレンデッドウイスキーの土台となり、世界の酒棚を塗り替えていく。
「クリーン」の中にも作り手の個性がある
もっとも、連続式=無個性というのは早計だ。サントリー知多蒸溜所(1972年、愛知県知多半島に設立)は複数のコラムスチルを操り、蒸留回数を変えることでクリーン・ミディアム・ヘビーという三つのタイプの原酒を作り分ける。多くのグレーン蒸溜所がヘビータイプ中心なのに対し、これは珍しい多彩さだ。
一方ニッカは、1963年にスコットランドから輸入した旧式のカフェスチル(現在は宮城峡蒸溜所に設置)を今も使い続けている。効率一辺倒の現代型コラムスチルより香味を多めに残すこの古い装置が、カフェグレーンやカフェモルトのふくよかな個性を生んでいる。

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