なぜ20年ものウイスキーは、20年前に酒税を先払いせずに済むのか——1823年に認められた「税を待つ倉庫」と、天使が持ち去った分の扱い
樽で20年眠るウイスキーに、その間の酒税はかかっていない。日本は「製造場から出したとき」、英国は「倉庫から払い出したとき」に課税する。長期熟成という商売を成り立たせている税の作法と、蒸発して消えた分の行方をたどる。
棚にある「12年」と書かれた一本は、少なくとも12年前に樽へ入れられている。20年ものなら20年前だ。その間ずっと、蒸溜所はその酒を売れない。売れないのだから、代金も入ってこない。
ここで素朴な疑問が浮かぶ。その20年のあいだ、酒税はどうなっていたのだろう。
酒は税のかかる商品である。もし造った瞬間に課税されるのなら、20年ものを出す会社は、20年前に税を先払いし、その資金が戻ってくるまで20年待つことになる。商売としてはかなり苦しい。にもかかわらず、世界には20年もの、25年ものが当たり前に並んでいる。
答えは、税をかけるタイミングにある。ウイスキーの酒税は、造ったときではなく、出したときにかかる。
日本の答え——「製造場から移出したとき」
日本の酒税法は、納税義務が成立する時期をはっきり定めている。国税庁の説明では、納税義務者を「酒類の製造者」と「保税地域からの引取人」に分けたうえで、製造者の場合は製造場からの移出時、引取人の場合は保税地域からの引取り時が課税の時期とされている(酒税法第6条ほか)。
つまり、蒸溜所の熟成庫に樽が並んでいるあいだは、まだ税の出番ではない。樽は製造場の中にある。そこから瓶詰めされ、出荷されて初めて、酒税が発生する。
ここで一点、混同しやすい言葉を整理しておきたい。「保税」は関税法の用語で、輸入した酒を通関前に置いておく場所の話である。国産ウイスキーが熟成庫で眠っているのは保税ではなく、単に「まだ製造場から出ていない」状態だ。同じ「税を待っている」ように見えても、根拠となる制度は別物である。
なお、免許を受けた製造場の外へ樽を移す場合は、原理としてはその時点が移出にあたる。ここには酒税法第28条の未納税移出という手当てがあり、所定の要件を満たせばその移出にかかる酒税は免除される(課税の出番は、その先へ送られる)。いずれにせよ、熟成そのものが課税の引き金になることはない。
樽一本には、いくらの税が眠っているのか
数字にしてみると、この仕組みのありがたみが分かる。
日本の酒税率一覧表(令和5年10月1日〜令和8年9月30日)によれば、ウイスキー・ブランデー・スピリッツの税率は、アルコール分37度以上ならする。37度未満は、13度以上であれば一律370,000円だ(13度未満はさらに別の特例税率が適用される)。低価格帯の国産ウイスキーがのは、ここが税の下げ止まる点だからである。
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