ここが「37」という数字の核心だ。表をもう一度見てほしい。37度未満は、13度以上であれば一律370,000円である。36度に下げても、30度に下げても、納める酒税は37度のときと変わらない。
裏を返せば、37度とは最低税額の370,000円のまま届く、いちばん高い度数だということになる。同じ税額を納めるなら、度数は高いほうが商品として強い。35度でも36度でもなく37度にぴたりと揃うのは、そういうことだ。
(正確を期すと、13度を切るとさらに下がる。同じ資料に並ぶもう一つの表——租税特別措置法にもとづく特例では、発泡性のない酒類のうちアルコール分13度未満のものについて、9度以上13度未満なら80,000円に8度を超える1度ごとに10,000円加算、9度未満なら80,000円と定められている。ウイスキーもこの対象に含まれてはいる。ただし13度を切ったウイスキーは、もはや瓶で売る蒸留酒の姿ではない。なお缶ハイボールや缶チューハイは炭酸を含むぶんこの特例には当たらず、「その他の発泡性酒類」という別枠で課税される。2026年10月の酒税改正で税率が動くのは、そちらの側だ。)
もっとも、税だけで「なぜ36度や35度のウイスキーをほとんど見かけないのか」を説明しきることはできない。原酒をどれだけ使うかというコストは、度数を下げればその先も下がり続けるからだ。それでも37度で止まるのは、そこから下では税の見返りが消える一方、飲みごたえや「ウイスキーらしさ」という商品価値だけが削られていくからだと考えるのが自然だろう。
各社が度数の理由を「酒税だから」と公表しているわけでもない。実際、ニッカのハイニッカは39度で、税額でいえば37度より1klあたり2万円高い。数字の裏には、味の設計もブランドの立ち位置も同居している。
37度で「ウイスキー」と名乗れること自体、当たり前ではない。
酒税法がウイスキーについて定めているのは、発芽させた穀類と水を原料に糖化・発酵させて蒸留すること、蒸留の際の留出時のアルコール分が95度未満であること、といった原料と製法の条件が中心で、瓶に詰めるときの度数の下限は書かれていない。だから37度でも、ラベルに堂々と「ウイスキー」と表示できる。
同じことをスコットランドでやろうとすると、法律にぶつかる。
スコッチウイスキー規則2009(The Scotch Whisky Regulations 2009)は、スコッチウイスキーの要件として「最低アルコール度数40%」を明記している。37度のスコッチは、定義上あり得ない。1,000円台で買えるティーチャーズやホワイトホースが揃って40%なのは、それより下げる選択肢が法律上ないからである(→ ティーチャーズ vs ホワイトホース)。
もうひとつ、日本側にも40という線がある。日本洋酒酒造組合が2021年に定めた「ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」だ。
原料は麦芽・穀類と日本国内で採水した水に限り、麦芽は必ず使うこと(麹だけで糖化したものは含まれない)。糖化・発酵・蒸留は日本国内の蒸留所で行うこと。700L以下の木製樽に詰め、3年以上、日本国内で貯蔵すること。日本国内で容器詰めすること。そして、充填時のアルコール度数が40度以上であること。
これは法律ではなく組合の自主基準なので、満たさない商品も「ウイスキー」として何ら問題なく売られる。ただし37度のボトルは、この基準でいう「ジャパニーズウイスキー」を名乗ることができない。40度と37度のあいだにあるのは、税額21円の差だけではなく、名乗れる名前の差でもある。
味の側から見るとどうか。
ハイボールにする前提なら、差はかなり小さくなる。ウイスキー1に炭酸4の比率で割れば、37度は約7.4度、40度は8.0度。グラスの中では0.6度ほどの違いで、氷の溶け具合のほうがよほど大きく効く。37度の定番たちが炭酸で割られることを前提に設計されているのは、理にかなっている。
一方、ストレートやロックで香りを追いかける飲み方になると、度数の差はそのまま印象に出る。アルコールは香りを立ち上げる運び手でもあるので、度数が低いほど、香りの立ちや余韻は控えめになりやすい(→ ウイスキーの度数(ABV)の違いと選び方)。
だから選び方はこうなる。ハイボールや水割りが主戦場なら、37度で不足はない。ロックやストレートで一杯をじっくり味わいたいなら、同じ棚でも40度以上に手を伸ばす価値がある。
中身の味そのものの違いは、飲み比べた印象で語ったほうが早い(→ ブラックニッカ クリア vs トリス クラシック)。
棚に並ぶ「37度」は、味の好みだけでできた数字ではない。最低税額のまま届くいちばん高い度数が37度だという税制の形が、そのままボトルの表示に写し取られている。そして40度という線の向こうには、スコッチの法定要件と、ジャパニーズウイスキーの自主基準が控えている。
次にスーパーの棚の前に立ったら、値札の隣にある小さな数字を見てほしい。あの2〜3度の差は、造り手が価格と味と名乗りのあいだで選び取った結果なのである。