なぜウイスキーの瓶は透明なのか——ビールが茶色い瓶を使う理由と、中身の色を見せることの代償
ビールの瓶は茶色、赤ワインは濃い緑。なのにウイスキーの瓶は中身が丸見えの透明が主流だ。光が酒を壊す化学反応と、それでもウイスキーが色を見せる理由、そして2年の日光がボウモアを別物にした実験をたどる。
冷蔵庫からビールを出すと、瓶は決まって茶色か緑だ。赤ワインのボトルも、たいていは濃い緑か黒に近い茶色をしている。ところがウイスキーの棚に目を移すと、様子が変わる。中身の琥珀色がそのまま見える透明なガラスが、ずらりと並んでいる。
酒は光に弱い——それは酒類に共通する常識のはずだ。なのに、なぜウイスキーは中身をさらけ出しているのか。答えは「ウイスキーが光に強いから」ではない。むしろ逆で、ウイスキーは光に負けることを承知のうえで、透明を選んできた酒である。
ビールの茶色い瓶は、味を守るための装備だ
まずビールから。あの色付きの瓶は、見た目の趣向ではなく品質管理の道具だ。
キリンビールの用語事典は、日光にさらされたビールに生じる異臭を「日光臭」と呼び、「ビールの苦み成分であるイソフムロンが日光によって分解され、硫化水素と反応して発する臭い」と説明している。そのうえで、「ビール瓶が茶色あるいは緑色をしていたり、パッケージに直射日光をさけるように注意書きがされているのは、ビールの品質が日光によって大きく変質してしまうから」だと明記する。
醸造科学の側の説明はもう少し細かい。光を受けたリボフラビン(ビタミンB2)が引き金となって、ホップ由来のイソα酸(イソフムロンはその一種だ)が分解する。そこで生じたラジカルが、硫黄を含むアミノ酸(システイン)に由来するラジカルと結びついて、3-メチル-2-ブテン-1-チオール(MBT)という化合物ができる。これが「スカンク臭」の正体で、検知の閾値はビール中で4ppt(1兆分の4)程度とされる。桁違いに強い香気成分だ。この反応をもっとも効率よく起こすのは、およそ350〜500nm——紫外から青にかけての波長域の光である。
だから瓶の色が効いてくる。茶色いガラスは500nm以下の光を遮る。緑のガラスが遮りはじめるのは400nm以下からで、被害のいちばん大きい400〜500nmの青い光を十分には遮れない。この波長域での保護力は、茶色のおよそ4分の1にとどまるとされる。そして透明なガラスは、可視光を何ひとつ遮らない。
つまり色付きの瓶は、程度の差こそあれ、味を守るために選ばれたフィルターなのだ。
ワインは「見せたい」ほうへ寄って、痛い目を見ている
ワインでも、別の経路で似た被害が起きる。こちらはフランス語で「goût de lumière(光の味)」と呼ばれる。
マスター・オブ・ワインのエッシ・アヴェランの解説によれば、光で励起されたリボフラビンが、ワイン中の硫黄を含むアミノ酸メチオニンを光酸化し、二硫化ジメチル(DMDS)などの不快な硫黄化合物を生む。立ちのぼるのは、煮たキャベツ、腐った卵、饐えたチーズ、ひどければ下水のような匂い。しかも、わずか1時間の露光でも起こりうるという。
興味深いのは、この問題がここ数年あらためて騒がれている理由だ。ロゼワインが透明な瓶で売られるようになったからである。あの淡いピンクは商品の売りそのものなので、隠すわけにいかない。見せれば売れる。見せれば壊れる。ワインの世界はいま、このトレードオフを正面から抱えている。ちなみにルイ・ロデレールのクリスタルがボトルをオレンジのセロファンで包んでいるのは、有害な光の98%を遮るためだとされる。
ここまで来ると、ウイスキーの透明な瓶がどういう位置にあるかが見えてくる。
ウイスキーに「日光臭」は起きない。だが無傷でもない
まず、ウイスキーはビールともワインとも同じ壊れ方はしない。
日光臭の反応にはホップ由来のイソα酸が要るが、ウイスキーはホップを使わない。ワイン型の反応に必要なリボフラビンやメチオニンにしても、どちらも不揮発性の物質で、蒸溜という工程は揮発しないものを釜に置いていく。だから留出した液には、原理上ほとんど移らない。ビールともワインとも、スイッチがそもそも付いていないわけだ。
しかし「その反応が起きない」ことと「光に強い」ことは、まったく別の話である。ウイスキーの中で何が壊れるのかは、ビールのMBTのような一本道では説明されていない。それでも、光にさらされた結果がどうなるかは、条件を変えた比較で繰り返し報告されている。
スウェーデンの愛好家マティアス・クラソンが行った、よく知られた検証がある。ボウモアの「レイムリグ バッチ3」——12年ではなく、15年熟成をシェリー樽で仕上げたカスクストレングスの一本だ——を、基準となる適正保存を含む8通りの環境に2年間置き、最後に飲み比べるというものだ。冷凍庫、45℃の機械にテープで貼り付けたもの、安物のペットボトルに移したもの、残量が10clのボトルと半分のボトル。そして、屋外で日光と風雨にさらしたもの。
屋外に置かれた一本の結末は、容赦がなかった。色は「淡い白ワイン」まで褪せ、香りには「粗悪なグラッパ、接着剤、腐りかけのレモン」、さらに「ガソリン」「洗っていない洗濯物」という言葉まで並んだ。味は強烈な苦みと、生温かいプラスチック。あるパネリストは100点満点で20点をつけ、参照ボトルとの類似性はゼロ、シェリー樽もピートもスモークも、ボウモアらしさも残っていないと評した。

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