なぜ静岡の蒸溜所は、ポットスチルを「薪の火」で焚いているのか——山から出た間伐材と、オークションで競り落とした軽井沢の釜
釜の下で薪が燃える、蒸溜所自身が「他に類を見ない」と呼ぶポットスチル。静岡蒸溜所が薪を選んだ理由と、隣に立つもう一基——閉鎖された軽井沢蒸溜所の部品から組み直された釜の来歴をたどる。
日本の蒸溜所を見学すると、ポットスチルの足元はたいてい静かだ。釜の中を蒸気の配管が走り、発酵を終えたもろみを内側から温めている。直火で焚く蒸溜所も残ってはいるが、その場合も燃料は石炭やガスで、余市蒸溜所の石炭直火がその代表格だ。
ところが静岡市の山あいにあるガイアフロー静岡蒸溜所では、釜の下で薪が燃えている。蒸溜所自身が「他に類を見ない」と説明する、薪を燃料にしたポットスチルだ。資料によっては「おそらく世界唯一」とも紹介される。
なぜわざわざ薪なのか。そしてその隣には、なぜ閉鎖された軽井沢蒸溜所の釜が並んでいるのか。二基の初留釜をたどると、この蒸溜所が何を大事にしているのかが見えてくる。
竈の中は800℃——薪で焚くという選択
薪で焚かれているのは、初留釜「W」。スコットランドのフォーサイス社に発注したバルジ型で、容量は6,000リットル。下部に竈があり、そこで薪を燃やして釜を直火で熱する。ただし薪とスチームを併用できるハイブリッド構造なので、常に薪だけで焚いているわけではない。
温度が違う。蒸溜所の説明によれば、蒸気による間接加熱が約150℃であるのに対し、薪の直火では竈の中が約800℃に達する。ただし前者は熱を運ぶ蒸気の温度、後者は薪が燃えている燃焼室の温度で、測っている場所が違う。もろみそのものが800℃になるわけではない。
それでも、火に近い銅の内壁には局所的に高温の部分ができる。そこで焦げに近い反応が起こり、コクと力強さ、そして心地よい香ばしさが生まれるとされる。効率だけを見れば蒸気加熱のほうがはるかに扱いやすい。それでも火を選んだのは、この香ばしさが欲しかったからだ。
燃料も特徴的で、静岡の山から出る針葉樹の間伐材が使われている。
Shizuoka Pot Still W 5 Year Old 100% Imported Barley 2026 Edition
🇯🇵 日本 ・ ガイアフロー静岡蒸溜所 ・ シングルモルト ・ 5年 ・ 50.5%
「土地のもので造る」から逆算された蒸溜所
薪という選択は、思いつきではない。
創業者の中村大航氏がガイアフローを設立したのは2012年1月。同年6月にスコットランドのアイラ島とジュラ島を旅し、当時アイラでもっとも新しい蒸溜所だったキルホーマンを見学する。小さな蒸溜所でも世界に届くウイスキーが造れる——そこが出発点になった。
2015年には、静岡県産・日本産の麦芽だけで造るウイスキーを掲げる。地元での大麦栽培は2015年秋に始まり、翌2016年の初収穫はおよそ500キロ。一回の仕込みの半分にしかならない量だった。県の技術支援センターは清酒づくりで培った知見を生かし、モルト用の酵母を開発した。発酵槽には、輸入材のオレゴンパインと並んで静岡県産の杉が使われる。
とはいえ、すべてを地元産で賄っているわけではない。外国産大麦を使うラインも並行して走らせ、そのうえで土地のものを使える部分は使う、という構えだ。大麦、杉の木桶、そして薪。手が届く範囲のものを引き受けていく姿勢が、Wの竈にいちばん分かりやすく現れている。
下のボトルは、その薪直火のWで、日本産大麦だけを使って蒸留した一本だ(静岡県産に限定したものではない)。
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Shizuoka Pot Still W 100% Japanese Barley 2025 Edition Barrel 5 Year Old
🇯🇵 日本 ・ ガイアフロー静岡蒸溜所 ・ シングルモルト ・ 5年 ・ 55.5%

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