なぜスプリングバンクは、これほど熱狂的に愛されるのか——すべてを自分の手で造る、キャンベルタウン最後の一族蒸留所
大麦の製麦から瓶詰めまで、全工程を一つの敷地で貫くスコットランド唯一の蒸留所スプリングバンク。効率化に背を向けた手仕事と、一つ屋根から生まれる三つの個性が、世界の愛好家を虜にする理由を読み解く。
かつて一本3,000円台で、知る人だけがそっと棚から抜いていた「スプリングバンク10年」。それがいま、定価でもなかなか手に入らず、見つければ即完売——そんな熱狂の中心にいる蒸留所が、スコットランド西の外れ、キンタイア半島のキャンベルタウンにある。派手な広告も、大々的な宣伝もほとんどしない。なのに、なぜこれほど愛されるのか。答えは、この蒸留所の「造り方そのもの」に詰まっている。
大麦から瓶詰めまで、すべて自分の敷地で
スプリングバンク最大の特徴は、ウイスキーづくりの全工程——大麦の製麦、発酵、蒸留、熟成、そして瓶詰めまで——を一つの敷地の中で完結させる、スコットランドで唯一の蒸留所だという点だ。
とりわけ象徴的なのが製麦(フロアモルティング)である。大麦を床に広げ、人の手で攪拌しながら発芽させる昔ながらの手法を、いまも自社で残し、必要な麦芽の100%をこれでまかなうのはスプリングバンクだけとされる。多くの蒸留所が製麦を専門業者に外注して効率化を進めた時代に、あえて手間のかかる工程を手放さなかった。ピートを焚く量も自分たちで加減できるこの製麦こそ、味の出発点を握る核心でもある。「全部、自分たちの手でやる」というこの姿勢そのものが、飲み手の心をつかんでいる。
一つの屋根から、三つの別人格
さらに面白いのは、同じ蒸留所から性格のまったく違う三つの銘柄が生まれることだ。

看板の「スプリングバンク」は、ほのかな潮とピートをまとった複雑な味わいで、2.5回という珍しい蒸留を行う。一部の原酒だけを三度目の蒸留にかけ、二回蒸留と三回蒸留の原酒を混ぜ合わせる手法で、軽やかさと重厚さの中間にある独特の質感を生む。
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