なぜスコッチは63.5%で樽に詰められるのか——蒸溜したての70%でも、ラベルの40%でもない、途中の一点
スコッチの樽詰めは慣習で63.5%、バーボンは法律で62.5%以下。蒸溜直後の70%でもラベルの40%でもないこの一点が、木から何が溶け出すかを左右している。メーカーズマークが8年かけて検証した数字の話。
ラベルの「40%」は、誰でも一度は目にする数字だ。だが、その中身が樽に入った日の度数を気にしたことがある人は、ぐっと少ないと思う。
蒸溜所を出たばかりのスピリッツは、だいたい70%前後ある。瓶に詰まって店に並ぶときは40%か43%。ということは、どこかで水が足されている。問題は、その水をいつ足すかだ。樽に入れる前なのか、あとなのか。
スコットランドの多くの蒸溜所は、樽に入れる前に一度、63.5%まで落とす。アメリカのバーボンでは、樽に入れる度数の上限そのものが法律で決まっている。この記事では、この「途中の一点」がどこから来て、味に何をしているのかを追いかける。数字ひとつの話だが、たどるとウイスキーの経済と化学の両方に行き当たる。
蒸溜したては70%前後——樽に入る前に、水が足される
ポットスチルから出てきたばかりのニューポット(ニューメイクスピリッツ)は、スコットランドの多くの蒸溜所で68〜72%ほどの度数がある。この状態では、まだ樽に入らない。
ここにあらためて水を加えて、63.5%まで下げてから樽に詰める。つまりウイスキーは、熟成前と瓶詰め時の、少なくとも二度、水で薄められていることになる。瓶詰めの日に足す水からミネラルを抜く理由については別の記事で書いたが、樽詰め前の加水も同じくらい真剣に管理されている工程だ。
蒸溜直後のスピリッツがどんな液体なのかは、ニューポットとは何かを扱った記事にまとめてある。
63.5%はどこから来たのか——法律ではなく「取引の言語」
まず押さえておきたいのは、スコッチには樽詰め度数の規定がないということだ。スコッチウイスキー規則が定めているのは、オーク樽で700リットル以下、スコットランド国内で3年以上、瓶詰めは40%以上といった条件であって、樽に入れる度数には一行も触れていない。63.5%は法律ではなく、業界の慣習である。
では、なぜ揃ったのか。化学博士でウイスキー講師のハインツ・ヴァインベルガーは、二つの理由を挙げている。ひとつは樽の取引だ。スコットランドの蒸溜所は昔から、ブレンド用に互いの原酒を交換してきた。同じ容量・同じ年数の樽でも、詰めた度数が違えば中身のアルコール量が違う。度数を揃えておけば、樽と樽を「同じもの」として交換・売買できる。数字は、取引の共通言語だった。
もうひとつは熟成の設計だ。この強度がスコットランドでの熟成に最適だという研究結果があり、それを受けて1980年代に業界標準として揃えられた、という経緯がある。ただし、この数字の由来をめぐっては諸説あり、どの実験が決定打だったのかまで一次資料で追い切れるものではない。「業界がそこに落ち着いた」という以上のことは、慎重に言うべきところだ。
アメリカでは、法律で天井が決まっている——1962年に110から125へ
対照的に、アメリカは樽詰め度数を法律で縛っている。主要な生産国のなかでは珍しい部類だ。連邦規則27 CFR §5.143は、バーボンやライなどについて、蒸溜は160プルーフ(80%)以下、そして「125プルーフ以下で新しい焦がしたオーク樽に貯蔵すること」と定めている。125プルーフ=62.5%。スコッチの慣習より、ちょうど1ポイント低い天井だ。
面白いのは、この数字が最初からこうではなかったことだ。禁酒法明けの1935年連邦アルコール管理法のもとで定められた同一性基準では、樽詰め度数は「80プルーフ以上110プルーフ以下」と、下限つきで決められていた。それが1962年、財務省決定6597号によって上限が125へ引き上げられ、下限のほうは撤廃される。
背景には、1959年にハイラム・ウォーカー社が公表した研究があったとされる。110プルーフを対照に、118・127・154プルーフで詰めた樽を8年寝かせて比べたもので、「現行の110プルーフという上限は、熟成中の損失や品質、濾過性を損なうことなく125程度まで引き上げられる」と結論づけている。度数を上げれば、同じ量のアルコールを寝かせるのに必要な樽の本数が減る。樽代も倉庫代も減る。
ただし、蒸溜所はすぐには飛びつかなかった。125プルーフでの樽詰めが広く使われるようになったのは、20年近く経った1980年代前半、連邦酒税が引き上げられてからだったという。規制が変わっても、造り手の手はそう簡単には動かなかったわけだ。
なお、樽そのものを新品に限る規定についてはバーボンが新樽を使う理由で扱っている。
度数が変わると、木から出てくるものが変わる
ここからが本題だ。なぜ度数を変えると味が変わるのか。
樽材からウイスキーへ移る成分は、ひとつの物質ではない。バニリンのようにアルコールに溶けやすいものもあれば、木の糖やある種のフェノール類のように水に溶けやすいものもある。つまり液体の中の水とアルコールの比率が変われば、木から引き出される成分の顔ぶれが変わる。
実験の裏づけもある。1974年に米国公定分析化学者協会(AOAC)の学会誌に載った研究では、バーボンの色の濃さと、コンジナー(発酵・蒸溜や樽から生じる微量の香味成分)の濃度が、樽詰め度数が上がるほど減っていくことが示された。ヴァインベルガーも、色・固形分・揮発酸・フーゼル油・タンニンは度数が上がると減る一方、果実味をつくるエステル類はあまり影響を受けない、と整理している。
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