本文へ移動ウイスキーのグラスは食洗機に入れていいのか——グラスメーカーは「洗える」、洗剤メーカーは「クリスタルは不可」 | Malt Noteバーのカウンターで、「グラスは洗剤で洗わないんですよ」と聞いたことのある人は少なくないと思う。一方で家に帰れば、シンクの横に食洗機がある。ウイスキーのグラスは、そこに入れてしまっていいのか。
調べてみると、答えは一つに定まらない。しかも意見が食い違っているのは素人同士の話ではない。グラスを作っている会社と、洗剤を作っている会社が、正面から逆のことを書いている。
ウイスキー専用グラスの代名詞になったグレンケアン(→なぜ世界中が同じ形のグラスで飲むようになったのか)の公式FAQは、こう書いている。多くのバーが自社のグラスを食洗機で洗っている、ただし手洗いを好む人もいる、彼らはそれが味わいや香りの感じ方に影響すると考えているから——という書き方だ。禁止していない。「そう感じる人がいる」と紹介しているにとどまる。ただし彫刻を入れたグラスについては、彫りが時間とともに薄くなるので手洗いを勧める、と明記している。
ワイングラスのリーデルはもっと踏み込む。日本法人の公式FAQは「リーデルのグラスは食器洗浄機で洗浄していただけます」と書き、推奨機種で1,500回の洗浄に耐えることが実証されている、とまで言う。ただし同社のお手入れページを読むと、条件が一つ付いている。「食洗機対応」の表示がある製品は——という限定だ。すべてのグラスが対象ではない。
ところが洗剤の側を見ると、話が逆になる。花王の食器洗い乾燥機専用キュキュットは、「使えない食器」にクリスタルガラスを挙げている。しかもこれは液性が弱アルカリ性の「クエン酸効果」だけの話ではない。液性が中性と表示された「ウルトラクリーン」でも、除外リストの中身は同じだ。うるし塗り、クリスタルガラス、銀食器、アルミ、金線・銀線・上絵つき——液性が違っても、除外される食器は変わらない。
つまり洗剤メーカーは、液性に関係なく、クリスタルガラスをまとめて対象外にしている。
この食い違いを解く鍵は、食洗機メーカーの技術資料にあった。ミーレが公開しているグラスのトラブル解説は、曇りの原因を種類ごとに分けて説明している。
そのひとつがエッチングで、同社の定義では「アルカリ性の洗浄液によってガラスから金属イオンが奪われること」。日常づかいのグラスや安価なクリスタルは、程度の差はあれ経年でこの兆候が出るとされる。そして重要なのはこの一文だ——いったんエッチングが始まると、元に戻すことはできない。
同資料は、エッチングを促進する条件を五つ挙げている。
- 食器を予洗いしてから入れること
- 水量が不足していること
- 水が軟らかすぎること
- 湯温が高すぎること
- リンスエイド(乾燥仕上げ剤)を使わないこと
対策も並んでいる。洗剤は最小量にとどめる(同資料は小さじ1杯で足りることが多いとする)。水量は機械が許す最大にする。より低温のプログラムを使う。過度に軟らかい水は避ける。正しく並べてすすぎを全体に行き渡らせる。リンスエイドを使う——理由は、水が水滴にならず膜状に流れ落ちるので、ガラスと薬剤が接触している時間が短くなるからだという。
要するに、食洗機そのものが敵なのではない。強いアルカリが、高い温度で、薄まらないまま、長く接触する——その組み合わせが敵で、食洗機はそれを揃えやすい機械だ、というだけの話だった。
リーデル自身も、手洗いの説明の中で**「洗剤のアルカリ成分がガラスに残るとガラスを曇らせます」**と書き、洗浄液が残らないよう十分にすすぐよう求めている。同社が挙げるグラスの曇りの原因のひとつは、はっきり「アルカリ系の洗剤によるガラスの変質」である。手洗いの文脈で書かれた注意ではあるが、アルカリが残るとまずい、という認識は両社で一致している。
五条件の筆頭に挙がっているのが「予洗いしてから入れること」だ。これは直感に反する。汚れを落としてから入れるほうが親切に思える。
資料はその理由を書いていないので、ここは筆者の見立てになる。洗剤のアルカリは本来、油やタンパク質に消費される。庫内に相手が少なければ、向かう先はガラスの側に偏る。
そこで問題になるのが、ウイスキーを飲んだだけのグラスには、油汚れがほとんどないということだ。ストレートやトワイスアップで飲んだあとに残っているのは、酒と、触れた指の皮脂くらいのもので、皿のバターやソースのような負荷は存在しない。
つまり、グラスだけをまとめて庫内に入れて回すと、庫内全体が「予洗い済み」の状態になる。 ここが肝心なところで、丁寧に扱っているつもりで選ぶ「グラスだけの運転」が、条件としてはいちばん厳しい。皮肉な話だが、汚れた食器と一緒に回したほうが、洗剤の向かう先は分散する。
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自力で変えにくい条件が、もう一つある。「水が軟らかすぎること」だ。
東京大学の研究グループが2017年から2020年にかけて全国665地点の水道水を集めて分析したところ、日本の水道水の硬度の平均は48.9mg/Lだった。WHOは硬度60mg/L以下を軟水としているので、日本の水道水は平均値の時点で軟水にあたる。
ミーレの資料は、軟水についてこう書いている。非常に軟らかい水は反応性が高く、グラスや食器から余分にミネラルを引き出すように働く。 ここで引き出されるのは水中のミネラルではなく、ガラスに含まれている金属イオンのほうだ。つまりこれは、さきほどのエッチングそのものを別の言い方で述べている。軟水は飲んでおいしく、出汁もよく出るが、ガラスに対しては必ずしも優しくない。
ただし地域差は無視できない。同じ調査で千葉83.4mg/L、埼玉82.8mg/L、東京65.8mg/Lと、首都圏はいずれもWHOの軟水域を超えている。首都圏に限らず、熊本72.2mg/L、沖縄68.1mg/Lなども軟水域の外にある。逆に北海道・東北は低く、全体では0.101から200mg/Lまで幅がある。「日本は軟水」は平均の話であって、自分の蛇口がどちらかは別に確かめる必要がある。水質データを公開している水道事業者は多い。
手元のグラスがもう曇っているなら、それが手当てできるものかどうかを先に見分けたい。資料を突き合わせると、三段階に整理できる——というのは筆者の整理で、各社がこう分類しているわけではない。
表面に載っているだけのものは、落ちる可能性がある。硬水由来のカルシウム・マグネシウムが白い斑点や膜になったもの、それに、リーデルが挙げる「空気中に浮遊する油脂分やゴミの付着」がこれにあたる。斑点状で、光にかざしてムラがあれば、この系統を疑っていい。家庭で試すなら、クエン酸をぬるま湯に溶かしてしばらく浸ける方法が現実的だ。
傷に入り込んだものは、落ちにくい。リーデルは、油脂分やゴミがガラス表面の細かい傷に沈着することを曇りの原因の一つに挙げている。表面に載っているだけの汚れと違って、こちらは簡単には抜けない。
ガラスそのものが変わったものは、戻らない。ひとつはさきほどのエッチング。もうひとつが、ミーレの資料がシリカフィルムと呼ぶものだ。水を軟水化する過程でカルシウムとマグネシウムがナトリウムに置き換わり、その交換の結果として水中の溶解固形分が増えて、筋や膜になる。この膜は光にかざすと最初は虹色に見え、厚くなるにつれて不透明になっていく。同資料は、これは取り除くことができないとし、エッチングに先行したり併発したりするとも書いている。
紛らわしいのだが、虹色に光るのはエッチングの兆候ではなく、この膜のほうの初期症状だ。そして見分けがつかないときは、さきほどのクエン酸に浸けてみるのが早い。落ちれば載っていただけ、落ちなければ戻らない側、という切り分けになる。
なお硬水由来の斑点について、ミーレの資料が「カルシウム除去用のクリーナーで落とせる」と書いているのは食洗機の庫内側の堆積についてである。食器に出た分については、洗剤をやや多めにする・リンスエイドを使う・水を軟水化する、で軽減または解消できるとしている。ただしこの三つは硬水地域向けの処方で、エッチング対策とは逆を向いている点に注意したい(洗剤を増やし、水を軟らかくする方向だからだ)。硬水由来の斑点に困っているならこちら、そうでないならエッチング側の対策を優先する、という順序になる。
ここで、洗剤の除外リストに戻る。「クリスタルガラス」と書かれていたとき、自分のグラスがそれに当たるかどうか。
「クリスタル=鉛入りの高級品」と受け取られがちで、無鉛と書いてあれば対象外だと思ってしまう。これは誤解だ。
日本硝子製品工業会の定義では、クリスタルガラスは酸化鉛を含むものと含まないものに大きく分かれる。酸化鉛30%以上がフルレッドクリスタル、24%以上がレッドクリスタル、24%未満でも酸化鉛や酸化カリウム・酸化バリウム・酸化亜鉛を合わせて10%以上含むものがセミレッドクリスタル。そして酸化鉛をまったく含まなくても、酸化カリウム・酸化バリウム・酸化チタン・酸化亜鉛などを10%以上含むものは「カリクリスタルガラス」「バリウムクリスタルガラス」「チタンクリスタルガラス」と呼ばれ、いずれもクリスタルガラスである。
グレンケアンは自社FAQで「製品仕様に記載がないかぎり当社のグラスウェアは無鉛」としている(同時に、一部の製品には酸化鉛が24%、デカンタでは30%含まれるとも書いている。ちょうどレッドクリスタル、フルレッドクリスタルの区分値と同じ数字だ)。だが無鉛であることは、クリスタルガラスでないことを意味しない。社名からしてグレンケアン・クリスタルである。リーデルのほうも、曇りの対策を書いた箇所で「特にクリスタル素材のグラスの場合ですが、洗剤を使用する場合には中性洗剤を使用して頂くことが対策になります」と述べており、自社の製品をクリスタル素材として扱っている。
つまり——公式のグレンケアンやリーデルを使っているなら、それは花王が「使えない食器」に挙げた「クリスタルガラス」に該当する。 リーデルが「食洗機で洗える」と言っているそのグラスが、である(逆に、通販で見かける安価な「グレンケアン型」の多くは普通のソーダガラスなので、この項は当てはまらない)。
では両社は矛盾しているのか。筆者は、こう理解すると辻褄が合うと思っている。グラスメーカーは、自社製品を、条件を管理したうえで洗う場合を書いている。推奨機種を指定し、温度と洗剤とすすぎに注文をつけたうえでの「1,500回」だ。洗剤メーカーのほうは、どんな食洗機に、どんな温度で、どれだけの量を入れられるか分からない不特定多数に売っている。条件を管理できない前提に立つなら、デリケートな素材はまとめて外しておくのが筋になる。
実際、花王の除外リストにはクリスタルガラスのほかに、うるし塗り、銀食器、アルミ、金線・銀線・上絵つきが並ぶ。うるしも銀もアルミも、エッチングとは関係がない。共通しているのは「高温と水流と洗浄成分で変質しやすい」ことのほうだ。これはエッチングだけの話ではなく、デリケートな素材の一括除外である。
片方は条件付きの許容で、もう片方は条件を管理できない前提での一律除外。どちらも正しい。
そして、この構図から実務的な結論が出る。条件を管理できるなら食洗機は選択肢に入るし、管理する気がないなら洗剤メーカーの側に従っておくのが安全だ。判断材料は「無鉛かどうか」ではなく、低温で回せるか/洗剤を絞れるか/リンスエイドを使えるか/グラスだけで回さずに済むかである。リンス剤は機種によって使い方が違うので、取扱説明書を見てほしい。
リーデルのお手入れページは、拍子抜けするほど簡単なことを書いている。軽い汚れなら、45℃程度のお湯で洗うだけでほとんど落ちる。 油分などの汚れが目立つ場合に、家庭用の中性洗剤をやわらかいスポンジにふくませてやさしく洗う。そして洗剤をしっかりと洗い流す。
注目したいのは「洗剤を使うな」ではなく「中性のものを使い、しっかりすすげ」と書いてあることだ。バーで聞く「洗剤は使わない」という流儀は、洗剤そのものが悪いというより、すすぎ残しが香りに乗ることを警戒した作法だと考えたほうが実態に近い。さきほど書いたとおり、ウイスキーのグラスには油汚れがほとんどない。湯だけで済むなら、それがいちばん簡単だ。
もう一点、同社が強調しているのが乾かし方である。水滴を付着したままにすると、それ自体がガラスの曇りの原因になる。洗ったらできるだけ早く拭き上げる。自然乾燥に任せて放置するのが、いちばんまずい。
ここまで洗い方の話をしてきたが、リーデルは別のところにも原因を挙げている。保管中に吸うものだ。
同社は、良いグラスほど周囲の匂いをボウルの中に溜め込みやすいとして、箱や食器棚から出してすぐのグラスに注がないほうがいいと書く。理想は使う前に一度洗うことだが、飲む1時間ほど前に外に出して軽く拭くだけでも、不快な匂いはかなり減るという。
曇りの対策として書かれている一文も、同じ方向を向いている。空気中の油脂分が付着するのを避けるために、キッチン周りなど油脂分が浮遊しやすい場所を避けて保管すること。コンロの近くの吊り戸棚は、グラスの置き場所としては条件が悪いということになる。
食器棚には洗剤も、乾物も、木の匂いもある。伏せて置けば内側にその空気が滞留するし、上を向けて置けば埃が落ちる。どちらが正解と断言できる資料は見つからなかったが、扉の中に何を一緒に置いているかのほうが、伏せる/伏せないより効いているというのが筆者の見立てだ。
香りの軽い一本ほど、この差は表に出る。花や柑橘のような繊細な香りは、グラス側の匂いに簡単に上書きされてしまう。
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逆に、強いピートの一杯を飲んだあとのグラスは、こちらが匂いを残す側に回る。同じグラスで次に軽いモルトを飲むなら、間に一度洗っておいたほうがいい(→ピート(泥炭))。
ラフロイグ 10年Laphroaig 10 Year Old
🏴 スコットランド ・ ラフロイグ蒸留所 ・ シングルモルト ・ 10年 ・ 40%
飲み干した空のグラスから濃い香りが立つのは、軽い成分から順に飛んで重い成分だけが残るからで、これはガラスがよく匂いを掴む器であることの裏返しでもある(→なぜ空のグラスからいちばん甘い香りがするのか)。掴む器は、余計なものも掴む。
同じ理由で、拭き上げに使う布も無視できない。柔軟剤の香りがついた布巾で拭けば、その匂いはグラスに移る。テイスティングを目的に飲むなら、無香のクロスを一枚、専用に用意しておくと迷いがない。リーデルが自社で勧めているのはマイクロファイバーの大判クロスで、理由は繊維がけば立たないことと、速乾性だ。
収納でもう一つ、同社が具体的に禁じていることがある。グラスの中にナイフやフォーク、スプーンを入れて保管しないこと。 ガラス表面の傷や破損の原因になる。そして傷は、さきほどの「傷に入り込んだ曇り」の入口でもある。しまうときはグラス同士を接触させず、少し間を空ける。
最後に、香りではなく物理の話を。
リーデルは拭き方も具体的に書いている。台座部分をクロスで包み込むようにして支え、ステムと台座を拭く。ボウルは、片手で下のほうを包み込むように支えて、もう一方の手で外側を拭き上げる。内側は、クロスをグラスに軽く押し入れて、やさしく回す。
やってはいけないのは、片手で台座、もう一方の手でボウルを掴んで、強くひねるように拭くこと。これはステムが折れる原因になる。
同社はもう一つ、洗っている最中は洗剤で滑るので取り落としに注意、とも書き添えている。脚つきのグラスが壊れるのは、たいてい力の向きを間違えるか、手が滑るかのどちらかだ。地味だが、どちらも覚えておくと一脚を長く使える。
- **食洗機そのものが敵なのではない。**エッチングを促すのは、予洗い・水量不足・軟水・高温・リンスエイド不使用という条件のほうだ。
- **グラスだけをまとめて回すと、庫内が「予洗い済み」になる。**ウイスキーのグラスは油汚れがほぼないので、丁寧なつもりの運転がいちばん厳しい条件になりやすい。
- 白い曇りは、**表面に載っているだけなら落ち、傷に入れば落ちにくく、ガラスそのものが変われば戻らない。**見分けがつかないならクエン酸に浸けてみる。
- **無鉛でも、分類上はクリスタルガラスだ。**公式のグレンケアンやリーデルなら、洗剤の「使えない食器」はあなたのグラスの話でもある。
- グラスメーカーは条件付きで許容し、洗剤メーカーは条件を管理できない前提でデリケートな素材を一括除外している。どちらも正しい。
- 手洗いの要点は「洗剤を使わないこと」ではなく、45℃程度の湯を基本に、必要なら中性洗剤を少量、そして念入りにすすいで早めに拭き上げること。
グラスは、香りを集めるために作られた器だ(→ウイスキーグラスの選び方 / なぜグラスの形で香りが変わるのか)。集める能力が高いということは、こちらが与えたものを何でも集めてしまうということでもある。次の一杯を注ぐ前に、空のグラスに一度だけ鼻を近づけてみてほしい。洗剤の匂いがしたら、すすぎが足りていない。棚の匂いがしたら、置き場所のほうを疑ったほうがいい(→ウイスキーテイスティングの基本)。
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🏴 スコットランド ・ ザ・マッカラン蒸留所 ・ シングルモルト ・ 12年 ・ 43%
グレンモーレンジィ オリジナル 10年Glenmorangie The Original 10 Year Old
🏴 スコットランド ・ グレンモーレンジィ蒸留所 ・ シングルモルト ・ 10年 ・ 40%
同じグレンフィディック12年が、英国の高級スーパーでは£44、日本では3,960円から。価格差5,500円のうち税で説明できるのはどこまでか。日英の酒税を一次資料の数字で分解し、スコットランドの最低単価規制まで確かめる。