なぜブナハーブンは「ピートを焚かないアイラ」として静かに愛されるのか——潮風と、水にも煙を寄せつけない蒸溜所
アイラといえば強烈なピート。でもブナハーブンは、その島でほとんど煙を焚かない。仕込み水にすら泥炭を寄せつけないこの蒸溜所が、なぜ「海の甘さ」で通に愛されるのか。造りと歴史からたどる。
アイラ島のウイスキーといえば、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは「煙」だろう。ラガヴーリン、アードベッグ、ラフロイグ——潮と正露丸を思わせる強烈なピート香こそ、この小さな島の代名詞だ。
ところが同じ島に、ほとんど煙を焚かない蒸溜所がある。それがブナハーブンだ。アイラの北東、ポートアスケイグから細く曲がりくねった道を下った、アイラ海峡沿いの行き止まりに建つ。対岸にはジュラ島の山影。ゲール語の名は「Bun na h-Abhainn(河口)」、島の人は「ブ・ナ・ハ・ヴン」と読む。
なぜ「アイラなのにスモーキーでない」この一本が、声高でないまま長く愛されてきたのか。造りと歴史からたどってみたい。
アイラで、あえて煙を焚かない
ブナハーブンの主力ボトルは、アイラの他銘柄とは対照的に、ピートをほとんど感じさせない。かわりに立ち上がるのは、潮の塩気、香ばしいナッツ、そしてドライフルーツやオロロソシェリーの穏やかな甘さだ。「海の甘さ」とでも言うべき、まろやかで飲み飽きない味わいが、コアな愛好家に「アイラの隠れた名手」と言わせてきた。

12年はその象徴的な一本。2010年のリニューアルで度数は46.3%に上がり、冷却濾過をしない「ノンチルフィルター」、着色もしない自然な色へと改められた。濁りやすさと引き換えに、油分と香味をそのまま瓶に閉じ込める——「素のブナハーブン」を味わえる仕様だ。より長く樽で眠らせた18年になると、シェリーの甘みととろみがいっそう深まり、この蒸溜所の「海の甘さ」が最も豊かに開く。
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