なぜハイランドパークは「世界一バランスの取れたシングルモルト」と称えられるのか——オークニーのヴァイキングと、ヘザーの煙
ほのかな煙と蜜の甘さ、スパイスの余韻——強い個性でねじ伏せず、いくつもの表情を束ねる「万能の一本」。その調和はどこから来るのか。オークニーの風土と5つのこだわりから読み解く。
ウイスキー好きに「万能の一本を挙げるなら?」と尋ねると、しばしば返ってくる名前がハイランドパークだ。ほのかな煙、蜜のような甘さ、スパイスの余韻——強い個性でねじ伏せるのではなく、いくつもの表情を過不足なく束ねている。酒類評論家マイケル・ジャクソンが「モルト界で最高のオールラウンダー」と評したことでも知られ、いまも「最もバランスの取れたシングルモルト」の一つに数えられる。では、その調和はどこから来るのか。答えは、スコットランド本土のはるか北に浮かぶ島に隠されている。
本土の果て、ヴァイキングの島で生まれた
ハイランドパークが建つのは、スコットランド本土のはるか北に浮かぶオークニー諸島。最北級のスコッチ蒸溜所として知られる一軒だ。かつてこの島々はノルウェー領で、いまも地名や文化にヴァイキング(ノース人)の面影が色濃く残る。ブランドが近年のボトルに「ヴァイキング・オナー」「ヴァルキリー」といった北欧神話の名を冠しているのは、この土地の記憶をまとっているからだ。
創業は1798年とされる。言い伝えでは、教会の下働き(教会役員)を務めながら夜には密造を営んだマグナス・ユーンソンなる人物が、この地で酒を蒸溜していたという。ただし正式な蒸溜免許が下りたのは1826年で、1798年という数字は「創業神話」の色合いも帯びている。真偽の定かでない逸話も多いが、密造から始まった出自そのものは、スコッチの歴史そのものと重なっている。
「森のない島」のピートが、煙の質を変える
ハイランドパークの個性を決める第一の要素が、ピート(泥炭)だ。ただし同じピートでも、アイラ島のそれとは性格が大きく異なる。
蒸溜所は、近くのホビスター・ムーアという湿原から採るピートを使う。木のほとんど育たないオークニーでは、泥炭を作るのは主にヘザー(ヒース)などの植物。そのため焚いたときの煙が、アイラの「薬品的・海藻的」な香りではなく、花のように甘くアロマティックな方向へ振れる。ハイランドパークのスモークが「ピーティなのに刺々しくない」と評されるのは、この土壌の違いが大きい。
さらにこの蒸溜所は、いまや希少になったフロアモルティング(製麦場の床で大麦を発芽させる伝統製法)を残し、全体の約2割の麦芽を自家製麦している。8時間ごとに人の手で大麦を掻き返し、ヘザーピートの香りをじっくり含ませていく。残りは煙を焚かない麦芽を使うため、全体としては「ほんのり薫る」程度に抑えられる。この配分こそ、強すぎない煙の設計図だ。その穏やかな煙は、フラッグシップの12年「ヴァイキング・オナー」でこそ、いちばん親しみやすい形で味わえる。

Highland Park 12 Year Old Viking Honour
🏴 スコットランド ・ ハイランドパーク蒸留所 ・ シングルモルト ・ 12年 ・ 40%
シェリー樽と、冷たい島がくれる時間
第二の柱がシェリー樽だ。ハイランドパークは、スペイン・ヘレスでオロロソ・シェリーを詰めて仕込んだオーク樽を取り寄せ、そこで長い眠りにつかせる。一般にウイスキーの風味の6〜8割は樽由来と言われ、この蒸溜所も味づくりの多くを樽に託している。ヨーロピアンオークとアメリカンオーク、それぞれのシェリー樽を使い分けることで、乾いた果実の濃厚さと、蜂蜜やバニラのやわらかな甘さが同居する。
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