なぜロングモーンは「ブレンダーの宝」と呼ばれ、シングルモルトではめったに見かけないのか——クイーン・アンとシーバスを支えた130年、名前が表に出なかった理由
スペイサイドのロングモーンは、ブレンダーに珍重されながら単独のボトルをほとんど見かけない蒸溜所だ。原酒の行き先はいつもブレンドで、公式の15年が出たのは創業から約100年後。クイーン・アンからシーバスリーガルまで、名前を伏せて支えてきた歴史をたどる。
スペイサイドの町エルギンの南に、ロングモーンという蒸溜所がある。ウイスキー好きの間では「ブレンダーが惚れ込む原酒」としてよく名前が挙がる。それなのに、酒屋の棚でこのラベルを見かけることはめったにない。
評価されているのに、表に出てこない。この記事では、その理由を蒸溜所の130年からたどってみる。読み終えるころには、シーバスリーガルのグラスの中に、この名前を探したくなるはずだ。
礼拝堂の跡地に建った、1890年代ブームの蒸溜所
ロングモーンの会社は1893年、ジョン・ダフ、チャールズ・シレス、ジョージ・トムソンの3人によって設立された。蒸溜が始まったのは1894年12月である。
中心人物のダフは、グレンドロナックやアバディーンのボン・アコード蒸溜所で支配人を務め、グレンロッシー蒸溜所を興した経験もある人物だった。敷地はかつて礼拝堂があった場所とされ、「ロングモーン」という名も「聖者の地」を意味するゲール語に由来すると説明されることが多い(語源には諸説ある)。
ダフは数年後、すぐ隣にもう一つ蒸溜所を建てた。いまのベンリアックである。ところが時代が悪かった。1898年末、ブレンド業者パティソンズが破綻し、過熱していたウイスキー景気は一気にしぼむ(詳しくはパティソン恐慌の記事で書いた)。ダフはこの打撃から立ち直れず、1899年にロングモーンを手放した(1909年とする資料もある)。
最大の顧客は「ブレンドを造る側」だった
ここからが、ロングモーンの運命を決めた部分だ。ダフから蒸溜所を買い取ったのはジェームズ・グラントで、以後1970年まで、グラント家の会社が所有を続けた。
所有者は蒸溜所の側の人間だったが、原酒の行き先はほぼ一貫してブレンドだった。1900年代の初めには、すでにVAT 69やデュワーズなど多くのブレンデッドに使われる人気のモルトになっていたという。
なかでも長く買い支えたのが、エディンバラの酒商ヒル・トムソン社である。同社は1884年にブレンデッド「クイーン・アン」を発売し、のちに「サムシング・スペシャル」も看板に加えた。クイーン・アンの広告は、グレンリベット、グレングラント、ロングモーンの名を背景に「スコットランド屈指のモルト3つを1本に」とうたったという。
ロングモーンは、ブレンドの格を引き上げる上質なモルト、いわゆる「トップドレッシング」として扱われてきた。蒸溜所自身が単独で売る商品ではなく、他の原酒と組み合わせて看板ブレンドを支える部品だったのである。
増設は「ブレンドが欲しがったから」
1970年、ロングモーンの会社は、グレンリベット&グレングラント社、ヒル・トムソン社と合併し、グレンリベット・ディスティラーズの一員になる。このとき、自前のフロアモルティングは止まった。
その後、スチルは1972年に4基から6基へ、1974年には8基へと増えた。いまも初溜釜4基・再溜釜4基の体制である。増設の理由として、多くの資料がブレンダーからの需要を挙げている。
1977年にはカナダの酒類大手シーグラムがグループごと買収し、2001年にシーグラムの酒類事業の一部をペルノ・リカールが取得した。現在はペルノ・リカール傘下のシーバス・ブラザーズが運営している。
シーバスの18年に、この名前が入っている
いまも生産の大半はブレンド用に押さえられている。主な行き先の一つが、同じグループのシーバスリーガルだ。
シーバスの核はキースのストラスアイラである。ロングモーンはその周りを固めるモルトの一つだ。シーバスリーガル18年を1997年に生み出したマスターブレンダー、コリン・スコットは、この18年にストラスアイラとロングモーンを使ったと語っている。

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