なぜウイスキーはあの琥珀色をしているのか——色の濃さは「熟成年数」の証ではない
グラスに注がれた美しい琥珀色。だが蒸留したての原酒は、実は無色透明の液体だ。あの色はどこから来るのか。そして「色が濃いほど古くて上等」という思い込みは、なぜ必ずしも正しくないのか。色を生む樽のはたらきと、見た目に隠れた落とし穴を読み解く。
グラスに注がれたウイスキーの、あの深い琥珀色。多くの人がこの色を見て「長く寝かせた証」「上等な一本」と感じる。だが少し意外なことに、蒸留所の蒸留器から流れ出たばかりのウイスキー(ニューメイクスピリッツ)は、水のように無色透明だ。では、あの美しい色はいったいどこから来るのか。そして「色の濃さ=熟成年数」という直感は、どこまで信じてよいのだろうか。
色はすべて「樽」から来る
結論から言えば、ウイスキーの色はほぼ100%、熟成に使われるオーク樽に由来する。無色透明のスピリッツを樽に詰めて数年から数十年寝かせるあいだに、酒は木材からさまざまな成分を少しずつ引き出していく。木に含まれるタンニンやリグニン由来の化合物、そして樽の内側を焦がした際に生まれるカラメル化した糖分——これらが溶け出し、透明だった液体を黄金色から琥珀色へと染めていく。
つまり色は、香りや味わいと同じく「木との対話の記録」なのだ。ステンレスタンクにいくら長く入れておいても、ウイスキーは決して色づかない。色がつくこと自体が、木の樽で寝かされた証といえる。
同じ年数でも色がまるで違う理由
ここで重要なのが、「色の濃さ=古さ」とは限らないという点だ。色を左右する要素は熟成年数だけではなく、むしろ樽の種類や状態のほうが大きく効いてくる。
まず効くのが樽の履歴だ。シェリー酒を仕込んでいた欧州産オークのシェリー樽は、濃いマホガニーのような色を与えやすい。一方、バーボンを寝かせたアメリカンオークの樽は、明るいゴールドやライトアンバーにとどまることが多い。同じ年数を寝かせても、樽が違えば色はまったく別物になる。
さらに「ファーストフィル」か「リフィル」かも大きい。ウイスキーの熟成に初めて使う樽(ファーストフィル)は成分がたっぷり残っており、色も香りも濃く出やすい。二度、三度と使い込まれた樽(リフィル)は木の力が弱まり、色づきは穏やかになる。極端に言えば、ファーストフィルのシェリー樽で10年寝かせた酒が、疲れたリフィル樽で20年寝かせた酒よりずっと濃い、ということが普通に起こる。

たとえばこのアベラワー・アブーナは熟成年数を表示しない(ノンエイジ)ボトルながら、ファーストフィルのオロロソシェリー樽由来で驚くほど深い色をまとう。「濃い色=長熟」という等式が必ずしも成り立たないことを、雄弁に物語る一本だ。
このコラムの関連
関連するボトル


次に読む

なぜウイスキーの生産量は「純アルコール」で数えるのか——「年1,500万リットル」はボトル何本分? 税金と度数が決めた物差し
蒸溜所の「年間生産能力1,500万リットル」は、瓶に詰める液体の量ではない。水を除いた純アルコール(LPA)の量だ。度数が工程ごとに変わり、税金も純アルコールに掛かるから。ボトル本数への換算法と、日本の酒税との意外な共通点まで解説する。

バーボン樽熟成ウイスキーのおすすめ5選——バニラの甘さは「何回目の樽か」で変わる。樽の甘さ・素顔・煙で選ぶ
スコッチの多くを支えるのに、ラベルではあまり目立たない「バーボン樽」。バニラやココナッツの甘さがどこから来るのか、ファーストフィルとリフィルで何が変わるのかを整理し、オーヘントッシャン アメリカン・オークからラフロイグ10年まで、樽の甘さ・蒸溜所の素顔・煙の3つの軸で5本を紹介します。







