ウイスキーはグルテンフリーなのか——大麦から造るのに「含まれない」とされる理由と、日本のラベルがグルテンを語らない事情
原料は大麦・小麦・ライ麦。それでも英国の患者団体は「モルトウイスキーも問題ない」と案内し、米国は2020年に表示ルールを改めた。蒸留が置いていくものと、日本のラベルにアレルゲンが書かれていない理由を整理する。
ウイスキーの原料は、大麦であり、小麦であり、ライ麦である。グルテンを含む穀物として名前が挙がるものばかりだ。それなのに、イギリスのセリアック病患者団体は「大麦から造るモルトウイスキーも含めて、スピリッツは問題ない」と案内し、アメリカの規制当局も2020年に、蒸留酒への「グルテンフリー」表示を認める方針へ切り替えている。
矛盾しているように見えるこの話には、蒸留という工程の性質と、国ごとに違う表示ルールがからんでいる。そして日本のボトルの裏ラベルを眺めても、グルテンについては一言も書かれていない。書かれていないことにも、はっきりした理由がある。
グルテンは、蒸留器を越えられない
まず、グルテンとは何かを整理しておきたい。厳密にいえばグルテンは小麦のタンパク質(グリアジンとグルテニン)を指す言葉だが、セリアック病の文脈では、大麦のホルデイン、ライ麦のセカリンといった近縁のタンパク質もまとめて「グルテン」として扱われる。免疫が反応するのは、これらのタンパク質だからだ。
ここが要点になる。反応の原因はタンパク質であって、香りでも味でもない。
そしてタンパク質は、蒸留器を越えられない。蒸留は、エタノールが水より低い温度で気化する性質を使って、揮発する成分だけを取り出す工程である。タンパク質は不揮発性の大きな分子で、加熱しても蒸気に乗らず、蒸留釜の底に残る。ポットスチルにせよ連続式蒸留器にせよ、上へ昇っていくのはアルコールと水と、香りをつくる揮発成分だけだ。
アメリカ食品医薬品局(FDA)は2020年の最終規則で、適正製造規範が守られていれば——つまりグルテンを含む物質を蒸留液側へ持ち込まなければ——蒸留はグルテンを含めたすべてのタンパク質を除去する、との判断を示している。イギリスのセリアック病患者団体 Coeliac UK も、大麦から造られるモルトウイスキーを名指ししたうえで、蒸留がグルテンの痕跡を取り除くため、スピリッツはグルテンフリーの食生活に適するとしている(一方でビールやエールは、グルテンフリーとして造られた製品を除き適さないと明記している)。
条件つきではあるが、原料が何であれ適正に蒸留された時点で麦のタンパク質は置き去りにされている、というのが米国の規制当局と英国の患者団体に共通する理解である。
大麦麦芽だけで造るシングルモルトも、小麦を副原料に使うバーボンも、ライ麦を主役に据えた一本も、この点では同じ扱いになる。原料の穀物が違えば香りも味も大きく変わるが、蒸留の出口については変わらない。

このコラムの関連
次に読む

ボイラーメーカーとは何か——ビールとウイスキーを「並べて飲む」一杯は、なぜ世界中の酒場にあるのか
ウイスキーのショットとビールを組み合わせる「ボイラーメーカー」。名前が定着したのは1930〜40年代のアメリカ。同じように混ぜずに並べる飲み方は、スコットランドの「ハーフ・アンド・ア・ハーフ」やフィラデルフィアの「シティワイド」など各地にある。歴史と合わせ方を整理する。

なぜハイボールは唐揚げに合うのか——「炭酸が脂を流す」は本当か。渋みと脂の「綱引き」から読み解く
唐揚げにハイボールが合う理由は「炭酸が脂を洗い流すから」とよく言われる。だが、それを直接確かめた研究は見当たらない。確かめられているのは、渋みが脂のぬるっとした感覚を打ち消すこと。炭酸・度数・苦み・冷たさから、あの相性を分解する。






