ウイスキーとテキーラは何が違うのか——同じ「樽で寝かせた酒」なのに、足していいものの線がまるで違う
どちらも樽で熟成し、琥珀色になり、値札も近い。それでもウイスキーとテキーラは、糖の作り方・熟成の下限・足していい添加物・原料表示・産地の縛りで、条文の線の引き方が正反対に近い。NOMとEU規則を並べて読み解く。
バーの棚で、ウイスキーの隣にテキーラが並んでいる。片方は琥珀色で、もう片方は無色透明——という住み分けは、もう正確ではない。テキーラにも樽で3年寝かせた琥珀色のものがあり、値札もウイスキーと変わらない。
では、この二つは何が違うのか。原料が違う、産地が違う。それはそのとおりだが、面白いのはその先だ。どちらも「どこまで熟成させるか」「何を足していいか」を規格の条文で決めている酒でありながら、その線の引き方がまるで違う。
この記事では、メキシコの公式規格 NOM-006-SCFI-2012 と、EUの蒸留酒規則 2019/787 を並べて読みながら、五つの分かれ道を見ていく。ウォッカやラムとの比較記事の、アガベ編にあたる回だ。
出発点——糖にたどり着く道が違う
ウイスキーの原料は穀物だ。デンプンのままでは酵母が食べられないので、糖に分解する「糖化」という工程が要る。EU規則2019/787は、ウイスキーの定義に「そこに含まれる麦芽のジアスターゼ(酵素)によって糖化され」と書き込んでいる。条文は他の天然酵素の併用も認めているが、主役はあくまで麦芽の酵素だ。

テキーラの原料はアガベ(リュウゼツラン)、正確にはブルーアガベという品種の、株元にあたる部分だ。葉を落とすと巨大なパイナップルのような形になるので「ピニャ」と呼ばれる。ここに蓄えられているのはイヌリンという多糖で、これもそのままでは発酵しない。
NOMはこの工程を「加水分解(hidrólisis)」と呼び、化学的・熱的・酵素的、またはその組み合わせによって、アガベに含まれる主にイヌリンを分解し、発酵に適した単糖を得る手順と定義している。石窯やオートクレーブでピニャを蒸し焼きにする、あの工程のことだ。
どちらも酵素を使う道が残されてはいる。それでも、主たる担い手が「麦芽」と「熱」に分かれている点が、両者の出発点をはっきり分けている。ちなみにラムにはこの工程そのものがない——サトウキビは最初から糖だからだ。
「3年」の重さが、正反対
次が熟成。ここが一番はっきり分かれる。
EU規則はウイスキーに、という下限を課している。EU市場で「ウイスキー」を名乗るなら、3年待たないものは名乗れない(→)。日本の酒税法に熟成年数の定めはないが、「ジャパニーズウイスキー」を名乗るなら業界の自主基準が同じ3年を求める。いっぽう米国の連邦規則にウイスキー一般の最低熟成期間はなく、2年という数字は「ストレート」を名乗るための条件だ。
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