なぜ高いウイスキーほど美味しく感じてしまうのか——値札を見せると脳の反応まで変わり、伏せると差は消えた
同じワインに二つの値札をつけると、高い表示のときのほうが「美味しい」と報告され、脳の活動まで動いた。ところが8週間後、値段を伏せて飲み直すと差は消える。6,175件のブラインド評価が示した価格と評価の関係と、家で値札を外して飲む手順まで。
棚に1,500円の一本と、5,000円の一本が並んでいる。どちらを開けても、たぶん5,000円のほうが美味しい——そう思って手を伸ばすとき、私たちはひとつ見落としている。値札を、見てしまっているということだ。
値札を見せるかどうかで、感じ方は変わるのか。この問いに限って言えば、わりとはっきりした結果が出ている。しかも「気のせいでしょう」で片づく話ではない。
ひとつ断っておくと、以下で紹介する実験はいずれもワインを使ったものである。ウイスキーで同じ規模の研究は見当たらなかった。働いているのは酒の種類ではなく飲み手の側だろうと筆者は思うが、そこは確かめられた話ではない。ウイスキーに当てはめるときは、あくまで参考として読んでほしい。
同じワインに、二つの値札をつけた
2008年、米国の研究チームが行った実験がある(Plassmann, O'Doherty, Shiv, Rangel, PNAS, 2008)。
被験者は20人。fMRIの装置に横たわり、細いチューブで少量ずつワインを口に流し込まれる。飲む直前、目の前の画面にそのワインの値段が映る。5ドル、10ドル、35ドル、45ドル、90ドル。被験者は5種類のワインを試していると思っていた。
実際に注がれていたのは3種類だった。ある一本は「5ドル」と「45ドル」の二役を演じ、別の一本は「90ドル」と「10ドル」を演じていた。中身は同じである。
結果は、値札のとおりに出た。高い値段が表示されたときのほうが「美味しい」と報告され、しかも内側眼窩前頭皮質(mOFC)——快さの処理にかかわる領域——の活動が強まっていた。感想だけが動いたのではない。脳の反応のほうも一緒に動いている。
ここで、変わらなかったもののほうが面白い。味の「強さ」の評価には、価格の効果が見つからなかった。値札は「どれくらい濃いか」には手を出さず、「どれくらい快いか」だけを動かしていたことになる。
8週間後、値札を外したら差は消えた
この実験には、静かな続きがある。
主実験から8週間後、同じ被験者に、値段を伏せて同じワインを飲んでもらった。論文はその結果をひとことで書いている。ワインのあいだに、差は報告されなかった。装置の中では確かにあった「45ドルのほうが美味しい」は、値札と一緒に消えた。
千円台の一本を物足りなく感じるとき、その物足りなさのどこまでが液体のもので、どこからが値札のものなのか——そう考え出すと、家の棚の見え方が少し変わる。

6,175件の評価が示したこと
もっと大きな規模で、同じ方向を指した研究もある(Goldstein et al., Journal of Wine Economics, 2008)。
2007年4月から2008年2月にかけて米国で17回のブラインドテイスティングが開かれ、506人が523種類のワインを試した。集まった評価は6,175件。注ぐ側もワインの正体を知らない二重盲検で、参加者は「全体としてどうでしたか」に4段階(Bad / Okay / Good / Great)で答えるだけ。価格は1本1.65ドルから150ドルまで幅があった。
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