ウイスキーは飲む順番で損をする——3杯目が分からなくなるのは、酔いのせいだけではない
軽いものから飲め、という定石には理由がある。数秒で慣れる嗅覚、味覚ではなく痛みとして届くアルコールの刺激、口に居座るピート。3杯目が分からなくなる仕組みと、家とバーでの並べ方、そして「コーヒー豆でリセット」を調べた実験の話。
バーの3杯目で、急に味が分からなくなる。家で3本を並べて飲み比べたのに、最後の一本の印象だけ思い出せない——。
たいていは「酔ったからだ」で片づけられる。だが、酔いだけが原因ではない。もうひとつの犯人が 飲んだ順番 で、しかもこちらは、飲む量を減らさなくても直せる。
念のため補助線を引いておくと、ここで問題にしているのは酔いの強さではない。ビールとワインで検証した実験では、飲む順番を変えても二日酔いの重さは変わらなかった(なぜお酒を「ちゃんぽん」すると悪酔いすると言われるのか)。順番が変えるのは、酔いの深さではなく その晩に感じ取れる量 のほうだ。
定石は「軽い→重い、ノンピート→ピート、低度数→高度数」
まず、現場で共有されている原則から。米国のウイスキー専門誌 Whisky Advocate は、テイスティングの組み立て方をこう勧めている。
- 一度に並べるのは 6杯まで。1杯あたり10分以上かける。
- 基本は 度数が上がっていく順 に並べる。
- ただし ピートの強いものやシェリー樽の濃厚なものは、度数に関係なく後ろ(6杯なら5〜6番目) に置く。
理由は単純で、個性の強い一本を早い位置に置くと、そのあとの繊細な一杯の香りを覆い隠してしまうからだ。同誌は、いちばん度数の高い一杯は開幕ではなく「メインイベント」として後ろに置くべきだとしている。
聞けば当たり前に思える。ただ、なぜそうなるのかを知っておくと、順番が崩れたときに立て直せる。
犯人その1:鼻は、同じ香りに数秒で慣れる
「味が分からなくなる」と言うとき、私たちはたいてい舌を疑う。だが主役は鼻のほうだ(なぜウイスキーは「味わう」より「香りを嗅ぐ」ほうが大事なのか)。
嗅覚には 順応 という仕組みがある。同じ匂いを嗅ぎ続けると、鼻の奥の受容体そのものの反応が落ちていく。ラットの嗅上皮を使った実験では、短時間の順応からの回復が 数秒 のスケールで進むことが示されている。細胞のレベルで見るかぎり、順応は数秒で起き、数秒で戻りはじめる素早い現象だ。
ヒトを対象にした研究も、休息の効果を裏づけている。20人に匂いを嗅がせ続けて完全に感じなくなるまで追った実験では、濃度が高いほど感じなくなるまでに時間がかかり、そして 休憩を長く取るほど、次の刺激が強く感じられた。
グラスに鼻を突っ込んだまま粘るより、いったん離して息を入れるほうが香りを拾える——テイスティングでよく言われるこの作法には、こうした裏づけがある(基本の手順はウイスキーテイスティングの基本にまとめている)。
犯人その2:アルコールの刺激は「味」ではなく「痛み」
順番に効いてくる二つ目が度数だ。
ウイスキーを口に含んだときの「焼ける」感じは、甘味や苦味のような味覚ではない。痛みや熱を伝える 三叉神経 の反応で、食品科学でもエタノール水溶液の灼熱感として研究されている。つまりあれは、味の情報というより刺激の情報だ。
度数の高い一杯は、香りを吟味するより先に、この刺激で鼻と口を占領しやすい。強い刺激を浴びたあとの一杯が本来より薄く感じられるというのは、テイスティングの現場で広く言われることでもある。Whisky Advocate が挙げている理由は「強い一本があとの一杯を覆い隠すから」だが、筆者の見立てでは、この刺激の話も同じことの裏側だろう。ボトルの出来はまったく変わっていないのに、置いた位置だけで損をする。

Aberlour A'bunadh
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