なぜ世界最大級のスコッチ・コレクション3,384本は、ブラジルの家からスコットランドへ「帰った」のか——競売で散った3,900本と、まとめて手放した男
エディンバラで公開されている3,384本のスコッチは、サンパウロの男が35年かけて集めたものだった。六本の贈り物を境に始まった収集と、ほぼ同じ規模のコレクションが競売で散った対照から、「開けない一本」の意味を考える。
エディンバラのロイヤルマイル、城のすぐ下にある建物に入ると、壁一面のガラス棚に琥珀色の瓶が並んでいる。その数、3,384本。スコッチ・ウイスキー・エクスペリエンスが「ディアジオ・クレイブ・ヴィディス・コレクション」と呼ぶこの棚は、スコットランドの蒸溜所が持ち寄ったものではない。ブラジル・サンパウロに住むひとりの男が、35年かけて自宅に集めたものだ。
なぜ世界有数のスコッチのコレクションが、スコットランドから1万キロ離れた南米で生まれたのか。そして、ほぼ同じ規模のコレクションが競売でばらばらに散っていったのに、なぜこの3,384本はまとまったまま残ったのか。この記事では、その二つをたどる。
買い集めを「コレクション」に変えた、六本の贈り物
1970年代のブラジルで、シングルモルトは棚から選べるものではなかった。クレイブ・ヴィディスは製薬業界の経営者で、当時から自分なりの方法で瓶を手に入れていた。本人の言葉によれば、「ブラジルに飛んでくる人に、免税店で二、三本買ってきてもらえないかと頼んでいた」。
その噂を聞いたスコットランド人の同僚が、あるとき六本のシングルモルトを彼のもとへ持ってきた。ザ・グレンリベット12年、グレンモーレンジィ10年、ラガヴーリン12年、ラフロイグ10年、ザ・マッカラン12年、ストラスアイラ12年。同僚は、これらが「ただのウイスキーではない、特別な一本なのだ」と説明し、名前の読み方まで教えたという。
ヴィディスはその六本を開けなかった。「この六本を受け取って、開けずにバーに置いておいた」と後年語っている。免税店で買い置きしていた瓶が、この日を境に「集めるもの」になった。
面白いのは、半世紀前の贈り物なのに、六本のうち五本が今日も現行の定番として棚に並んでいることだ。


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