なぜマッカランは「シングルモルトのロールスロイス」と呼ばれるのか——スペインの森から始まる、樽への執念
マッカランの異名「シングルモルトのロールスロイス」。その正体は、スペイン北部の森の木を選ぶところから樽づくりを管理する「川上への執念」にある。紙幣に描かれた小さな蒸留器、批判を呼んだ転換まで、名声の裏側を読み解く。
バーの棚のいちばん目立つ場所に、マッカランはたいてい置かれている。「シングルモルトのロールスロイス」——この大仰な異名は、誰か一人の発明ではない。ウイスキー評論家の故マイケル・ジャクソンは1994年、これを「品評会の常勝者にしばしば贈られてきた呼び名」と紹介している。勝ち続けた結果として、自然に定着した称号なのだ。
では、なぜマッカランだけがそう呼ばれるまでになったのか。答えの大半は「樽」にある。この記事では、スペインの森から始まる樽づくりへの執念と、紙幣に描かれた小さな蒸留器、そして「ロールスロイス」の看板が背負ってきた賛否までを読み解く。
スペインの森から始まる「川上」への執念
ウイスキーの香味の多くは熟成樽がつくる——これは業界の共通認識だが、マッカランほどこの原則に投資してきた蒸留所は少ない。多くの蒸留所が樽を「調達」するのに対し、マッカランは樽になる前の「木」から管理する。
日本での取扱元であるサントリーの公式解説によれば、ヨーロピアンオークの樽材はスペイン北部で自社管理する森から選ばれ、丸太のまま約1年、樽板の状態でさらに最長18ヶ月も自然乾燥される。その後、シェリーの本場である南スペイン・ヘレスの製樽所(最高品質のシェリー樽を手がけるテバサ社など)で樽に組み上げられ、内側を焼かれ、オロロソシェリーを約18ヶ月詰めて「シーズニング」されてから、ようやくスコットランドに旅立つ。木を伐る前から数えれば、一つの樽が仕上がるまでに数年がかりだ。
現代のシェリー樽がこうして「シェリーで仕込まれる」ものになった背景は、こちらの記事で詳しく書いた。

The Macallan 12 Year Old Sherry Oak
🏴 スコットランド ・ ザ・マッカラン蒸留所 ・ シングルモルト ・ 12年 ・ 43%
さらにマッカランは、色をカラメル色素で整えることをしない。あの深い琥珀色は樽由来の自然な色だと公式に謳っており、グラスの色がそのまま樽の仕事ぶりを映す。スコッチの多くが着色を認められているなかで、これは分かりやすい矜持の示し方でもある。
紙幣に描かれた「不思議なほど小さい」蒸留器
樽だけではない。1824年、スペイサイドで最初期に政府公認の酒造免許を得た蒸留所のひとつとして創業したマッカランには、もうひとつの代名詞がある。「curiously small=不思議なほど小さい」と形容される、スペイサイドでも最小クラスのスピリットスチル(再留器)だ。背が低くずんぐりしたスチルでは蒸気の旅路が短く、香味成分が釜に戻る「還流」がほとんど起きない。だから重く油分に富んだ成分までそのまま留出し、重厚でリッチな酒質が生まれる。シェリー樽の濃厚な個性を受け止めるには、この骨太なニューメイクが必要なのだ。
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