なぜ日本では、自宅でウイスキーを造ってはいけないのか——梅酒だけが許される理由と、法律が引いた「1度」という線
家庭で梅酒を漬けるのは合法なのに、麦を発酵させてウイスキーを造れば罪に問われる。分かれ目はどこにあるのか。酒税法が引いた「アルコール分1度」という線と、梅酒にだけ認められた特例、そして造り手を待つ「年6キロリットル」の壁を読み解く。
初夏に梅を買ってきて、氷砂糖とホワイトリカーで漬ける。日本の家庭では当たり前の光景だ。では同じ台所で、麦芽のデンプンを糖化させ、酵母を入れて発酵させ、鍋で蒸留したらどうなるか。こちらは犯罪になる。
梅酒はよくて、ウイスキーはだめ。この線はどこに引かれているのか。
法律が引いた線は「アルコール分1度」
日本の酒税法は、酒類を「アルコール分1度以上の飲料」と定義している。ここでいう「度」は容量パーセントと同じ物差しで、40%のウイスキーは40度にあたる。
酒類の製造には税務署長の免許が要る。免許なしに造れば10年以下の拘禁刑または原則100万円以下の罰金で、造った酒も道具も没収される(酒税法7条・54条。懲役と禁錮は2025年6月の改正刑法施行で拘禁刑に一本化された)。
線を越えるのは、蒸留のときではない。
ウイスキーづくりでは、麦汁に酵母を入れて発酵させ、そのもろみをポットスチルにかける。発酵槽で数日置けば、もろみはアルコール分7〜9%ほどの、ビールに似た酒になっている。1度以上になった時点で、それは法律上の酒類だ。しかも酒税法は、酒母ともろみを造ること自体にも免許を求めている。
蒸留器に火を入れる前に、線はとうに越えている。自家醸造が「趣味だから」「売らないから」で免れないのはこのためで、国税庁も自家用の無免許製造は認められないと明言している。
それでも梅酒が許されているのはなぜか
酒税法は、酒に水以外のものを混ぜたとき、混ぜたあとのものが酒類であれば、新たに酒類を製造したものとみなす。梅酒づくりも本来はここに引っかかる。
だが家庭でつくる果実酒には特例が置かれていて、次の条件を満たす限り製造にあたらないとされている。
- 消費者が自分で飲むために行うこと。つくった酒は販売できない(無償で友人にふるまう程度は差し支えないとされる)
- ベースにする酒がアルコール分20度以上で、酒税が課税済みであること
- 混和後、新たにアルコール分1度以上の発酵がないこと
- 米・麦などの穀類とそのこうじ、ぶどう、アミノ酸やビタミン類、色素、香料、酒かすといった品目を混ぜないこと
後半の条件が、この特例の性格をよく表している。
禁じられた品目の前半は、どれも「そこから酒が造れてしまう」原料だ。米を入れればどぶろくに、麦を入れればビールの側に、ぶどうを入れればワインになりうる。後半のアミノ酸や色素、香料は発酵しないが、混ぜた先が合成清酒やリキュールという別品目の酒に変わるのを防いでいる。どちらも課税の区分を守る仕掛けだ。
「20度以上」という条件も、三つ目の「新たな発酵がないこと」と対になっている。度数の高い酒に果実を漬ければ、糖が溶け出しても発酵はほとんど進まない。20度という線は、その状態をまず確実に保てる水準として引かれたものだと説明される。梅酒の定番がホワイトリカー(35度前後)なのは、香りが穏やかで梅を邪魔しないうえに、この条件に余裕があるからだ。
家庭の梅酒は「酒を造っている」のではなく、「課税済みの酒に梅を漬けている」。法律はそう整理しているわけだ。
では、ウイスキーで梅を漬けるのは?
40%のウイスキーは、20度をゆうに上回る。禁じられた品目を使わず、自分で飲む範囲にとどめるのであれば、ウイスキーをベースに梅などを漬けることは、この特例の内側に収まる。香りの強い一本を選ぶと梅よりウイスキーが前に出るので、クセの少ない定番銘柄のほうが合わせやすい。
このコラムの関連
関連するボトル

次に読む

なぜ高級ウイスキーの瓶は、あんなに重いのか——850gの角瓶を持つブランドが、180gの瓶を888本だけ造った理由
棚から下ろした瞬間の「ずっしり」は、中身の量とは関係ない。それでもワインでの調査では重い瓶ほど値段が高く、スコッチ業界は包装を10%軽くする目標を掲げながら、逆に2.6%重くなった。いま瓶を削り始めた造り手たちの話。

なぜウイスキーの蒸溜所は、ジンも造るのか——免許は、もう一枚要る
クラフトジンの棚には、ウイスキーの造り手の名前が思いのほか多い。「熟成待ちの資金繰り」だけでは説明がつかない——日本でジンを出すには、別の免許をもう一枚取らねばならない。制度・設備・土地の三つの層から読み解く。





