熟成前のウイスキー「ニューメイク」はどんな味なのか——無色透明の『生まれたての酒』を、蒸溜所が売る理由
スチルから流れ出たばかりの無色透明のスピリッツ「ニューメイク」。度数と味わい、なぜスコッチでは3年未満を「ウイスキー」と名乗れないのか、日本の酒税法との違い、そして熟成前の酒をあえて瓶詰めして売る蒸溜所の事情までを整理します。
蒸溜所見学の終盤、ガラスの小瓶に入った無色透明の液体を差し出されることがある。「これが、ウイスキーになる前の姿です」。鼻を近づけると、洋梨や青リンゴのような甘い香りの奥から、蒸したての穀物の匂いが立ちのぼる。ニューメイク——樽に入る前の、生まれたてのウイスキーだ。
近年はこの新酒が、そのまま瓶詰めされて店頭に並ぶことも増えた。しかしウイスキーとは、樽で長く寝かせてこそのものではなかったか。なぜ蒸溜所は、まだ何者でもない透明な酒をあえて売るのだろう。
ニューメイクとは何か
ポットスチルから流れ出たばかりの液体は、おおむね68〜71%ほどのアルコール度数を持つ(蒸溜所によって幅はある)。色はまったくついておらず、樽由来の香りも甘みも、まだ何ひとつ乗っていない。これがニューメイク(ニューメイクスピリッツ)で、日本ではニューポットとも呼ばれる。短期間だけ樽に入れた若い酒を「ニューボーン」と呼び分ける造り手も多い。
樽に詰めるときは、加水して度数を下げるのが一般的だ。業界の標準とされてきたのが63.5%で、樽を同じ条件で扱い、取引するための慣行でもある。ただしこれは絶対の数字ではない。樽の種類や狙う熟成に応じて65〜69%前後で詰める蒸溜所もあれば、加水せずスチルから出たままの度数で詰めるところもある。
味わいには、その蒸溜所の設計思想がそのまま出る。軽やかなタイプなら洋梨や青リンゴを思わせるエステル香、重いタイプなら穀物やオイルを思わせる厚み。ピートを焚いて乾燥させた麦芽を使っていれば、熟成を経る前からすでに煙は立っている。ただし度数が高く角も鋭いので、熟成品のような丸みを期待すると面食らうことになる。
なぜ「ウイスキー」と名乗れないのか
スコッチウイスキー規則(2009年)は、容量700リットル以下のオーク樽で、スコットランド国内で3年以上熟成させることを定めている。つまり3年に満たない液体は、どれほど蒸溜所の個性を宿していても「スコッチウイスキー」を名乗れない。ラベルには「スピリッツ・ドリンク」といった表記が使われる(→なぜウイスキーには「最低3年」の熟成義務があるのか)。
この制約を逆手に取った有名な例がある。2008年11月に生産を再開したハイランドのグレングラッサ蒸溜所は、翌2009年、自分たちの新酒を無熟成のまま瓶詰めし、《The Spirit Drink That Dare Not Speak Its Name(その名を口にできないスピリッツ・ドリンク)》という名で発売した。度数は50%。「ウイスキーと呼べない」という事情そのものを、商品名にしてしまったわけである。
日本では、事情が少し違う
ところが日本の酒税法は、ウイスキーの定義に熟成期間の規定を置いていない。発芽させた穀類と水を使って糖化・発酵させたものを蒸溜し、溜出時のアルコール分が95度未満であれば、品目としてはウイスキーに分類される。樽で何年寝かせたか、という条件はそこに入っていないのだ。
だから日本では、樽に入れる前の酒であっても、法律上は「ウイスキー」と表示できる。同じ熟成前の一本が、スコットランドでは「スピリッツ・ドリンク」、日本では「ウイスキー」になる。制度の違いは、ラベルのその一語に出る。
一方、2021年4月に施行された日本洋酒酒造組合の「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」は、日本国内での糖化・発酵・蒸溜に加え、700リットル以下の木製樽で3年以上の国内貯蔵、国内での容器詰めと40度以上の度数を求めている。ニューポットは酒税法上はウイスキーでも、「ジャパニーズウイスキー」とは名乗れない——そういう位置にある一本だ(→なぜジャパニーズウイスキーには定義が必要だったのか)。
造り手にとっては「蒸溜所の素顔」
ニューメイクには、樽という化粧が一切のっていない。発酵にかけた時間、選んだ酵母、スチルの形、そして流れ出る液体のどこからどこまでを中留(ハート)として取るか——樽より前の工程がつくった個性だけが、むき出しのまま残る。
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