買ってきたウイスキーを、家のミニ樽で寝かせてもいいのか——国税庁の通達は、樽に入れるのと木片を入れるのを書き分けている
1リットルや2リットルのミニ樽が売られている。買ったウイスキーを注いで「自分だけの熟成」ができるという。法律上やっていいのか、そして本当に美味しくなるのか。酒税法の条文と通達、そして樽が小さいほど速く動く理屈を検算した。
酒販店やネット通販で、1リットルや2リットルの小さなオーク樽が売られている。買ってきたウイスキーを注いで数週間置けば、色が濃くなり、樽の香りがつく。「自分だけの一本」ができる、という触れ込みだ。
気になることが二つある。それは法律上やっていいことなのか。そして、本当に美味しくなるのか。
先に書いてしまうと、一つ目の答えは条文と通達に書いてある。しかも、樽に入れるのと木のかけらを入れるのとで、扱いが正反対に分かれている。
酒に「水以外」を入れると、製造したことになる
出発点は酒税法第43条。条見出しそのものが「みなし製造」で、条文はこう始まる。
酒類に水以外の物品(当該酒類と同一の品目の酒類を除く。)を混和した場合において、混和後のものが酒類であるときは、新たに酒類を製造したものとみなす。
日本では酒を造るのに製造免許が要る。そして買ってきた酒に何かを混ぜると、それは新しい酒を造ったのと同じ扱いになりうる。自宅の梅酒がいつも話題になるのはこの条文のせいで(なぜ日本では、自宅でウイスキーを造ってはいけないのか)、ウイスキー同士を混ぜる自家ブレンドで線が問題になるのも、出どころは同じである(ウイスキーは家で混ぜてもいいのか)。
では、ミニ樽に注ぐのは「混和」なのか。
通達は、樽と木片を書き分けている
答えは、国税庁の「酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達」(いわゆる酒税法基本通達)の第43条 第1項関係の1にある。「混和」の意義が、こう示されている。
法第43条《みなし製造》に規定する「混和」とは、酒類に他物を投入することにより、酒質に変化を来させる行為をいう。したがって、酒類に木片等を投入しこの成分を浸出させる行為は混和となるが、木製のたる等に酒類を貯蔵することより〔原文ママ。「により」の誤植と思われる〕、樽の成分が自然に浸出した場合又は金ぱく等の成分の浸出がないものを投入した場合は、混和とはならない。
一文のなかで、扱いが二つに割れている。
- 木のかけらを酒に投げ込んで成分を出させる → 混和になる
- 木の樽に酒を貯蔵して、樽の成分が自然に出てくる → 混和にならない
木から成分が溶け出すという一点だけを見れば、両者で起きていることは変わらない。オークからバニリンやタンニンが酒に移る、それだけだ。それでも法律は、酒を木に入れたのか、木を酒に入れたのかという向きで線を引いている。ミニ樽に注ぐのは「酒を木に入れる」ほう、つまり「木製のたる等に酒類を貯蔵する」場合なので、そもそも「みなし製造」の入口に立たない。
ちなみに同じ一文は金ぱくにも触れていて、成分が溶け出さないものを入れるのも混和ではない、とわざわざ添えてある。
では、オークチップを瓶に入れたら違法なのか
ミニ樽ではなく、樽材のスティックやオークチップを瓶に落とす人もいる。通達に照らせば、こちらは明確に「混和」だ。
ただし、そこで話は終わらない。第43条には第11項がある。
前各項の規定は、政令で定めるところにより、酒類の消費者が自ら消費するため酒類と他の物品(酒類を除く。)との混和をする場合(前項の規定に該当する場合を除く。)については、適用しない。
「政令で定めるところにより」の先をたどると、酒税法施行令第50条第14項が条件を三つ並べている。混和前の酒類がアルコール分20度以上で酒税が課税済みであること。混和する物品が**「糖類、梅その他財務省令で定めるもの」であること。そして混和後に新たにアルコール分1度以上の発酵がない**こと。
肝心の「財務省令で定めるもの」は、酒税法施行規則第13条第3項が「次に掲げる物品以外の物品とする」という形で書いている。つまり禁じるものを並べて、それ以外は認めるという組み立てだ。並んでいるのは、米・麦・あわ・とうもろこし・こうりゃん・きび・ひえ・でん粉とそれらのこうじ、ぶどう(やまぶどうを含む)、そしてアミノ酸若しくはその塩類・ビタミン類・核酸分解物若しくはその塩類・有機酸若しくはその塩類・無機塩類・色素・香料・酒類のかす——この三類型だけである。
木片はここにない。ウイスキーは通常40度前後で、店で買った一本は課税済みだ。40度前後の蒸留酒に木を漬けても、新たな発酵が起きる余地はない。つまり、自分で飲む前提なら、チップを漬けても製造行為にはならない。
その「自分で飲む」の範囲も通達が定めている。第10項関係の2は、「自ら消費するため」には同居の親族が消費するためのものを含むとし、他人の委託を受けて混和するものは含まないとする。第11項関係の1が、この定めを準用している。家族で飲むぶんはよいが、頼まれて他人のぶんを仕込むのは違う、ということだ。
そして第12項が釘を刺す。
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