ティーチャーズの煙を担うのは、東ハイランド・アバディーンシャーのケネスモントにあるアードモア蒸溜所。1898年、ウィリアム・ティーチャーの息子アダムが、このブレンドのための原酒を確保する目的で建てた蒸溜所だ(その経緯はなぜティーチャーズは、この安さで「煙たい」のかにまとめている)。
ここで使われるピート(泥炭)は、同じアバディーンシャーのセント・ファーガスとニュー・ピッツリゴの泥炭地から来ている。麦芽のフェノール値はおよそ12〜14ppm。
一方、ホワイトホースの煙はアイラ島南岸のラガヴーリン蒸溜所から来る。こちらの麦芽のフェノール値はおよそ35ppmとされ、アードモアの倍以上だ。ホワイトホースの成り立ちそのものはホワイトホースの心臓がアイラにある理由に詳しい。
ひとつ注意を添えておきたい。ppmは麦芽の段階で測った値であって、蒸留・熟成・ブレンドを経た製品の煙の強さを表す数字ではない(→ウイスキーの「ppm(フェノール値)」とは)。ここでは「どちらの原酒が、より強くピートを焚いているか」を示す入り口の目安として読んでほしい。
ここで、冒頭に置いた宿題に戻りたい。
煙の質の違いは、しばしば「アイラの泥炭には海藻が積もっているから潮っぽく、内陸の泥炭は木やヒースが主体だから焚き火っぽい」と説明される。直感的で、覚えやすい話だ。
ところが、スコッチ・ウイスキー研究所(SWRI)のバリー・ハリソンらが各地の泥炭を比較した研究を読むと、話はそう単純ではない。この研究は泥炭を熱分解し、生成物の組成を成分のクラスごとに比べている。そしてリグニン由来の成分で見るかぎり、セント・ファーガス(アードモアが使う泥炭地)とアイラの試料は同じ側に分類される。炭水化物由来の成分が高かったのは、トミントゥール(スペイサイド)とオークニーのほうだった。
しかも、どの成分を見るかで組み合わせは入れ替わる。窒素含有化合物や芳香族炭化水素で見ると、今度はアイラとオークニーが近い側に来る。「内陸か海か」という一本の線で産地がきれいに二分される、という結果にはなっていないわけだ。
官能評価の結果も、素朴な図式には従わない。ハリソンらの一連の研究では、セント・ファーガスの泥炭で造った新酒が「甘く、スパイシーで、薬品的(medicinal)」と評され、ミズゴケの多いトミントゥールの泥炭で造った新酒はオークニーのものより薬品的だとされている。「海の泥炭だから薬品的」という説明では、この結果は説明できない。
ここで、この研究の射程も正確に押さえておきたい。分析されたのはリグニン由来・炭水化物由来・窒素含有・芳香族といった成分クラスであって、海藻由来とされる成分そのものを測ったわけではない。だからこれは「海藻説が反証された」という話ではなく、「測られた組成の軸は、内陸と海という軸に沿っていなかった」という話だ。
では何が言えるのか。組成を分析した論文自体は「観察された組成の違いが風味に影響を与えうる」という言い方にとどめている。一方、官能評価まで行った研究では、泥炭の産地が新酒の風味に有意な差を生むと報告されている。産地が効くことは示されているが、その中身をどう説明するかは、まだ途上にある。
だからこの記事は「なぜ煙の質が違うのか」に断定的な答えを出さない。二本の煙が違うことは飲めば分かるが、その理由は通説ほど単純ではない——ここは正直に留めておきたい。なお、通説の側に立った説明はアイラ島のピートはなぜ薬品っぽいのかにまとめてあるので、あわせて読むと対比になる。
確かなのは、泥炭そのものの性格(産地によって組成が違うことは示されている)、ピートの焚き加減(12〜14ppm と約35ppm)、蒸留と熟成、そしてブレンドでどれだけ薄められるか——これらの積み重ねとして、手元の二本の煙が決まっているということだ。
ブレンデッドの味を左右するもうひとつの軸が、モルト原酒の比率だ。ここで数字を並べたくなるのだが、どちらも現在は公式に比率を公表していないので、慎重に扱う必要がある。
ティーチャーズについては「モルト45%」という数字が資料に広く残っている。ブランド自身は2016年のパッケージ刷新以降、ラベルに数字ではなく「high in peated malt(ピーテッドモルトを多く含む)」と刷るようになった。ホワイトホースについては、業界資料で「約40%」と紹介されることが多いが、こちらも公式発表ではない。
つまりどちらも標準的なブレンデッドとしてはモルト比率が高めで、その差は言われているほど大きくない、というのが数字から言える精一杯のところだ。
さらに大事な点として、ここで言う比率は総モルト量であって、そのうち何割がピーテッドかは両ブランドとも非公表である。だから「どちらが煙を厚く効かせているか」を数字から決めることはできない。分かるのは、比率ではなく核に据えた原酒の性格のほうだ——ティーチャーズは12〜14ppmのアードモアを味の「指紋(フィンガープリント)」と呼んで骨格に置き、ホワイトホースは約35ppmのラガヴーリンを核に、多くの原酒でくるむ。
なぜブレンデッドが何十もの原酒を混ぜるのかはこちらのコラムにまとめている。
ティーチャーズは、アードモアという一軒への依存度が高い。30種以上のモルトを合わせながらも、骨格をこの一軒に置いてきた。
そのアードモアは、2001年まで石炭の直火でポットスチルを焚いていた、スコットランドでも最後期の蒸溜所のひとつだ。スチーム加熱へ切り替える際には、直火が与えていた風味を再現しようとコイルの形状に工夫を凝らしたと伝えられる(直火とスチームの違いはこちらの記事に詳しい)。切り替え後は、ピートを焚かない「アードレア」という原酒も造られるようになった。
ホワイトホースは、もっと多くの蒸溜所が名を連ねる。核のラガヴーリンに加え、現行の柱として挙がるのがグレンエルギン。ディアジオの複数のブレンドを支えるスペイサイドの原酒で、果実味のあるキャラクターを持ち込む一本とされる。歴史的にはカリラ、タリスカー、リンクウッドといった名前も構成原酒として知られてきた。グレーンはファイフの巨大蒸溜所キャメロンブリッジ由来とされる。
ここで一本、時間の筋を通しておきたい。ホワイトホースの柱として長く語られてきたクライゲラヒは、いまはもう現行の構成原酒とは考えにくい。1998年、ディアジオ誕生に伴う独占禁止対応で、デュワーズ社ごとバカルディへ売却された蒸溜所の一つだからだ(レシピ自体は非公表なので断定はできないが、資本が離れている)。皮肉なことに、クライゲラヒはいまデュワーズ側のキーモルトになっている。古い資料でこの名前を見かけたら、それはマッキー時代からDCL期にかけての話だと読み替えてほしい。
定番ブレンデッドのキーモルトを横断で知りたい人は、定番7本のキーモルトもどうぞ。
家飲みの主戦場であるハイボールにすると、二本の違いは分かりやすくなる。
ティーチャーズは、炭酸で割っても味が痩せにくい。煙と麦の甘みが最後まで残り、「安いスコッチをハイボールにすると水っぽくなる」という不満への答えになりやすい一本だ。強めの炭酸で、氷をしっかり詰めて作るといい(→美味しいハイボールの作り方)。
ホワイトホースは、蜂蜜や洋梨、バニラを思わせる甘さが前に出て、煙は輪郭として後ろに残る。ラガヴーリン由来の潮っぽさがかすかに顔を出すのがこの一本の面白いところだ。飲み口が軽いぶん食事と合わせやすく、「毎晩の一杯」としての座りがいい。煙が主張しすぎないので、スモーキーなウイスキーが苦手な人が同席していても場を選ばない。
このあたりは筆者の主観も混じる領域だが、上で見た設計の違い——骨格を一軒に置くか、強い一本を大勢でくるむか——を知っていると、味の現れ方に納得がいくはずだ。炭酸水と氷の選び方でも仕上がりは変わる。ここはハイボールに合うウイスキーの選び方にまとめてある。
三つの分かれ道で考えると決めやすい。
1. 煙を主役にしたいなら、ティーチャーズ。 焚き火寄りの、とがりすぎない煙が全体に回る。ハイボールにしても香りが立つので、スモーキー入門としても機能する(先ほどの研究で「薬品的」と評されたのは試験規模で造った新酒の話で、樽で寝かせた製品の風味とは別物だと考えていい)。
2. 煙は欲しいが脇役でいいなら、ホワイトホース。 甘さが前、煙は奥。毎日飲む一本としての飲み疲れのなさは、こちらに分がある。価格も一段安い。
3. アイラの潮っぽさに興味があるなら、ホワイトホース。 ラガヴーリン由来のあの潮っぽさは、アードモアからは出てこない性質のものだ。気に入ったなら、次は本家のアイラモルトへ進む道が開ける(→スモーキーなウイスキーのおすすめ10選)。
なお「今日は煙が要らない」という日も当然ある。同じ棚・同じ価格帯なら、蜂蜜寄りのデュワーズ ホワイトラベルが分かりやすい。先ほど触れたクライゲラヒが、いまはこちらの側で働いている一本でもある。