同じ40度なのに、なぜ「きつい一杯」と「するりと入る一杯」があるのか——度数が語っていないこと
同じ40%の二本でも、片方は喉が焼け、片方はするりと入る。灼熱感はエタノール濃度とともに強まるが、「きつさ」はそれだけで決まらない。蒸留のカット・樽の引き算・チルフィルタリングという三つの分かれ道から、度数が語っていないものを読み解く。
棚から二本を出す。ラベルにはどちらも40%。同じグラスに同じ量を注ぎ、同じ室温で口に運ぶ。ところが片方はひと口目で喉の奥がカッと来て、思わずチェイサーに手が伸びる。もう片方は、するりと入っていく。
度数は同じなのに、なぜこんなに違うのか。「安いからだ」「熟成が短いからだ」で片づけられがちだが、それでは同じ価格帯・同じ年数の二本が違って感じられることの説明にならない。
先に言ってしまうと、度数が語っているのはエタノールの量だけで、「どう感じるか」はほとんど語っていない。その差がどこで生まれているのかを、造りの側から見ていきたい。
まず、「熱い」と「きつい」は別のものらしい
出発点として、少し据わりの悪い話をしたい。あの灼熱感のほうは、エタノールの濃度に素直に従う。つまり、まろやかに感じる一本でも、熱さそのものは同じだけ来ている可能性がある。
ティボドーとピカリングは、エタノール水溶液に甘味(フルクトース)、苦味(キニーネ)、酸味(酒石酸)、収斂味(硫酸アルミニウム)をそれぞれ組み合わせ、感じ方がどう変わるかを調べた(『Beverages』2021年)。苦味はエタノール濃度が上がると強まり、甘味を足すと弱まった。ところが灼熱感・ピリピリ感だけは、エタノール濃度が上がると強まり、組み合わせた成分の濃度には左右されなかった。
甘さで苦味は隠せても、熱さは隠せない。
ただし、この結果を広げすぎてはいけない。実験のエタノール濃度は5%・13%・23%で、ウイスキーの40%帯は試されていない。組み合わせた四つも、ウイスキーに実際に含まれる香味成分ではなく、味の代表として選ばれたモデル物質だ。「度数以外は灼熱感に効かない」とまでは、この研究からは言えない。
それでも示唆は小さくない。私たちが「きつい」と呼んでいるものの正体は、熱さそのものというより、そこに乗ってくる苦味や粗さ、ざらつきのほうにあるのかもしれない。そして、その部分こそが造りで動く。
灼熱感が起きるしくみそのものはなぜウイスキーは最初「まずい・きつい」のかで扱っている。
分かれ道1:蒸留が「何を残したか」
ウイスキーは、水とエタノールが大部分を占める液体だ。分析化学の研究者が、装置で調べようとしても「水とエタノールの信号がスペクトルを支配してしまう」と書くほどで(ストックウェルら、2020年)、香りと味を担う成分——コンジナー——はごく微量にすぎない。この微量の顔ぶれが、二本の差をつくる。
そのコンジナーのうち、蒸留の切り方で動く一群が**高級アルコール(フーゼル油)**だ。ウイスキー史家のクリス・ミドルトンは、発酵中に酵母がアミノ酸を代謝してつくるこの一群について、生の状態では不快なにおいと刺すような味を持つと書いている。一方で同じ成分は、熟成のあいだに一部がエステルへ姿を変え、バナナや洋梨のような香りの側に回る。
ただし変わるのは一部で、多すぎれば熟成でも回収しきれない。そして、この一群は留出の後半に増える。だから蒸留のどこで受け始め、どこで打ち切るか——スピリッツカット——が効いてくる。中留を欲張って長く取れば量は増えるが、粗さも一緒に入る。同じ度数の二本のうち片方がざらつくとき、最初の分かれ道はここにある(なぜ蒸留の「カット」の取り方ひとつでウイスキーの個性が決まるのかに、受け始めと打ち切りの具体的な度数を書いた)。
分かれ道2:樽は、足すだけでなく引いている
樽の話は、バニラや甘みを「与える」側面ばかりが語られる。だが角を取るという意味では、引き算のほうが効いている。
クラインらの研究(1993年)は、樽の内側を焼く「チャー」の効果を三つに整理している。ひとつは、強力な吸着層ができて、望ましくない香味成分を速やかに取り除くこと。ふたつめは、その層の下に生じる熱の勾配が、木のリグニンから香味成分を制御された形で放出させること。みっつめは、木の表面が壊れて有効表面積が増え、ポリフェノールの抽出量が増えること。
この論文の官能評価がわかりやすい。チャーした樽で寝かせたものは「なめらか・バニラ・甘い」の評価が有意に高く、「刺激的・酸っぱい・油っぽい・硫黄っぽい」の評価が有意に低かった。樽は、若い酒のとげを物理的に吸い取ってもいるのだ(なぜウイスキーの樽は、わざわざ内側を「焦がす」のか、チャーとトーストも参照)。
若い酒がざらつきがちなのは、この引き算がまだ途中だから——そう考えると、なぜウイスキーの熟成は「近道」できないのかとも一本の線でつながる。
ここまでの二つは、度数が同じでも差を生む。実在の二本でその効きめを見たい方には角瓶 vs ジムビームがある。あちらは同じ40度の二本を突き合わせて「樽が何巡目か」に行き着く比較で、こちらはその差がどの工程で生まれるのかという一般論の側だ。
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