なぜスコッチは、テキーラの樽で仕上げた一本が棚に並ぶのに、ジンの樽ではだめなのか——2019年に足された一段落が引いた線
スコッチの樽について法令が決めているのは、オークで700リットル以下、それだけだ。2019年、地理的表示の仕様書に一段落が加わり、使える樽の輪郭が言葉になった。ジン樽は退けられ、テキーラ樽の一本は現に棚に並ぶ。その線はどこに引かれているのか。
ウイスキー売り場を歩いていると、「カルヴァドスカスクフィニッシュ」「テキーラカスクフィニッシュ」といったラベルを見かけるようになった。ひと昔前ならシェリーかポートか、せいぜいワイン樽だったところに、ずいぶん賑やかな名前が並んでいる。
ところで、「ジンカスクフィニッシュ」のスコッチを見たことがあるだろうか。
ウイスキーの蒸溜所がジンも造るのは、いまや珍しいことではない。手元には空き樽があり、話題性も十分にある。それなのに、ジンの樽で仕上げたスコッチは棚に並ばない。造り手が思いつかなかったからではない。スコッチの仕様書がある条件でその扉を閉じ、業界団体自身が「たとえばジンだ」と名指しで例を挙げているからだ。
法令が樽について決めているのは、材質と大きさしかない
スコッチウイスキーの中身を定めているのは「スコッチウイスキー規則2009(The Scotch Whisky Regulations 2009)」という法令で、その第3条が熟成について書いている。曰く、容量700リットルを超えないオークの樽で、スコットランド国内の酒税管理下にある倉庫(excise warehouse)などで3年以上寝かせること。
樽について書かれているのは、材質と大きさ。それだけだ。「元は何が入っていた樽か」については、一行もない。
なぜオークなのか、なぜ大きさで味が変わるのかは、それぞれ別の記事で書いた。ここで押さえておきたいのは、同じ第3条がもう一つ、別の角度から縛りをかけているという点だ。出来上がった酒は「原料と、その製造および熟成の方法に由来する色、香り、味を保っている」ものでなければならない、と条文は続ける。
樽の前歴を直接は縛らない。だが結果を縛ることで、間接的に縛っている。この「間接的」の輪郭が、長らく条文の上では曖昧なままだった。
2019年、その輪郭が仕様書に書き込まれた
スコッチウイスキー協会(SWA)は2019年6月15日、テクニカルファイル(現在は「製品仕様書」と呼ばれる、地理的表示としてのスコッチの中身を定めた文書)の改正を発表した。長年にわたって業界から「どんなオーク樽なら使えるのか」という問い合わせが寄せられていたことが背景にある。英国環境・食料・農村地域省(DEFRA)のパブリックコンサルテーションを経て、この文書に一段落が加えられた。
法令であるスコッチウイスキー規則2009のほうは、このとき手が入っていない。動いたのは仕様書の側だ。
改正後の該当部分は、こうなっている(訳は筆者による)。
樽の品質は重要である。スピリッツは、その中で熟成する木から個性と色を得るからだ。スピリッツは、新しいオーク樽、および/または、ワイン(スティルもしくは酒精強化)、ビール/エール、蒸留酒の熟成にのみ使われたオーク樽で熟成させなければならない。ただし、次のものを除く。
そして、除外が三つ並ぶ。
名指しで閉じられた三つの扉
仕様書が挙げる除外は、次の三つだ。
- 石果(stone fruits)から造られた、または石果を使ったワイン、ビール/エール、蒸留酒
- 発酵後に果実、香料、甘味料が加えられたビール/エール
- 蒸留後に果実、香料、甘味料が加えられた蒸留酒
石果とは、さくらんぼ、すもも、桃、あんずのように、中央に硬い核を持つ果実のこと。つまり、さくらんぼの蒸留酒キルシュや、すももから造るスリヴォヴィッツを寝かせていた樽は、ほかの条件をどう満たそうと使えない。
なぜ閉じたのか。SWAが公開しているガイダンスは、その理由まで書いている。これらの製品を熟成させた樽は過去にスコッチの熟成に使われたことがなく、場合によっては、最終的な酒にスコッチらしくない支配的な香味を与えかねないから、というのがその説明だ。
「品質が悪いから」ではなく、「使われてきた記録がないから」と「強すぎるかもしれないから」の二段構えになっている。ここがこの一段落の性格をよく表している。
そして、もう一つの条件——「その酒にとって、樽で寝かせることは伝統か」
除外リストのあとには、こう続く。「かつ、そうした過去の熟成が、当該のワイン、ビール/エールまたは蒸留酒にとって伝統的な工程の一部である場合に限る」。
ジンの樽を閉ざしているのは、この一文のほうだ。SWAのガイダンスは、二つの酒の名を挙げてこの条件を説明している。カルヴァドスは伝統的な製造工程の一部として熟成される蒸留酒の例であり、ジンはそうではない、と。
ジンが嫌われているわけではない。ジンは原則として、蒸留したてを瓶に詰める酒だ。樽で寝かせるジンも世の中にはあるが、ガイダンスはその反論を先回りしている。あるカテゴリーの一部の飲料が熟成を経ることがあるからといって、それがそのカテゴリーにとって伝統的な工程だとは限らない——だからこれは、個別の事案ごとに事実として判断される問題である、と。ある銘柄が樽で寝ているという実例だけでは足りない、という立て付けだ。
なお、シードル(りんごの発酵酒)の樽も使えない。ただしこちらは理由が違い、シードルはワインでもビール/エールでも蒸留酒でもなく、そもそも許された三つのカテゴリーのどこにも入らないからだ。
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