なぜウイスキーのラベルには、カロリーも原材料も書かなくていいのか——「酒類を販売する場合」と名指しした条文と、それを埋めている業界の規約
ペットボトルのお茶には原材料も栄養成分も並ぶのに、ウイスキーの瓶にカロリーは無い。書き忘れではなく、食品表示基準が「酒類」を名指しで義務から外している。何が免除され、なぜ国産ウイスキーには原材料名があるのかを条文から読む。
ペットボトルのお茶を裏返すと、原材料名も栄養成分表示も小さな枠にきっちり並んでいる。同じ店の棚からウイスキーを取って裏返すと、カロリーはまず見当たらない。輸入もののスコッチなら、原材料さえ書かれていないことが多い。
これは印刷を省いたわけでも、メーカーが隠しているわけでもない。日本の食品表示のルールが、「酒類」という言葉で名指しして、いくつかの表示義務から外している。
この記事では、何が外れて何が残っているのかを条文で確かめたうえで、それでも国産ウイスキーの裏ラベルに「原材料名 モルト、グレーン」と並ぶ理由と、世界がいまどちらへ動いているのかまで見ていく。
ラベルに必ず書かれている言葉は、思ったより少ない
まず、義務として残っているほうから。
酒類の容器には、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(酒類業組合法)第86条の5に基づいて、氏名又は名称/製造場の所在地/内容量/酒類の品目/アルコール分を、見やすい所に表示しなければならない(発泡酒などにはさらに税率適用区分が加わるが、ウイスキーには出てこない)。国税庁の説明資料は、書体まで「原則として楷書体又はゴシック体」と指定している。
これに加えて、同法に基づく国税庁告示「二十歳未満の者の飲酒防止に関する表示基準」(平成元年国税庁告示第9号)が、「20歳未満の者の飲酒は法律で禁止されている」旨の表示を求めている。文字は6ポイント以上、内容量360ml以下の容器では5.5ポイント以上。棚のほとんどのボトルに同じ一文が入っているのは、これが理由だ(50ml以下のミニチュアや、酒場・料理店向けのものなどは省略できる)。
さらに食品表示法に基づく食品表示基準からも、いくつか残る。国税庁のQ&Aは、酒類について表示が必要な事項をこう並べている——「名称」「添加物」「内容量」「食品関連事業者の氏名又は名称及び住所」「製造所又は加工所の所在地及び製造者又は加工者の氏名又は名称」「L-フェニルアラニン化合物を含む旨」「遺伝子組換え食品に関する事項」「原料原産地名」(輸入品を除く。)。
ウイスキーのラベルにときどき「カラメル色素」と書かれているのは、添加物が省略できない項目だからだ(スコッチにカラメル色素が加えられる事情は、それ自体が一つの話になる)。
裏を返せば、これ以外はほとんど書かなくてよい。
条文は「酒類を販売する場合」と名指ししている
食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)には、第5条(義務表示の特例)という条文がある。「前二条の規定にかかわらず、次の表の上欄に掲げる場合にあっては、同表の下欄に掲げる表示事項の表示は要しない」として、上欄の一番目にこう置かれている——「酒類を販売する場合」。そして下欄が、**「原材料名 アレルゲン 原産国名」**である。
さらに第3条第3項の表では、次の三つが酒類について「省略することができる」とされている。
- 保存の方法
- 消費期限又は賞味期限
- 栄養成分の量及び熱量(自ら栄養表示をしようとする場合などを除く)
つまり原材料も、アレルゲンも、原産国も、賞味期限も、カロリーや炭水化物の数字も、書かなくてよい。ウイスキーに賞味期限がないのも、糖質やカロリーの数字がラベルに見当たらないのも、行き着く先はこの二か所である。
ここで、さきほど義務のほうに出てきた「原料原産地名」と混同しないでほしい。免除されている「原産国名」は、第3条第2項の表で**「輸入品」に課される表示——つまり完成品がどこの国で作られたかであり、酒類はこれを外されている。残っている「原料原産地名」は「輸入品以外の加工食品」**に課される表示で、こちらは酒類も外れていない。免除されるのは輸入品側、義務が残るのは国産品側という、きれいな対になっている。この対称性は、あとでもう一度効いてくる。
条文は、なぜ酒類を外したのかを説明していない。栄養成分を省略できる区分の並びを見ると、「二 酒類」の前後には「容器包装の表示可能面積がおおむね三十平方センチメートル以下であるもの」「栄養の供給源としての寄与の程度が小さいもの」のほか、「極めて短い期間で原材料(その配合割合を含む。)が変更されるもの」「消費税を納める義務が免除される事業者が販売するもの」まで並ぶ。理由の異なるものが雑多に集められた列挙で、ここから制度の趣旨を読み取ろうとすると足を踏み外す。ちなみに酒類は「栄養の供給源としての寄与の程度が小さいもの」とは別立てで置かれている。
なお、免除は「書くな」ではない。国税庁の資料は「これらの事項を省略しないで表示する場合には、食品表示基準に沿った表示をする必要があります」と念を押している。書かないことは選べるが、書くなら基準どおりに、ということだ。
それでも国産ウイスキーには「原材料名」がある
ここで、多くの人の実感と食い違うはずだ。国産ウイスキーの裏ラベルには、たいてい「原材料名 モルト、グレーン」と書かれている。免除されているのに、なぜ書いてあるのか。
埋めているのは法律ではなく、業界の自主ルールである。景品表示法第36条第1項に基づく**「ウイスキーの表示に関する公正競争規約」第2号が「原材料名」**なのだ。国税庁のQ&Aも、酒類の原材料名や原産国名の表示は「公正競争規約などに基づく表示が行われています」と補足している。
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