なぜあなたの好きなスコッチは、たいてい「同じ数社」のものなのか——名前だけが土地に残り、持ち主は世界を巡った150年
ラベルには土地の名前、裏ラベルには多国籍企業の名前。約150あるスコットランドの蒸溜所は、なぜ少数の会社に集まったのか。ディアジオ誕生と1998年の売却劇、資本で甦った蒸溜所、売らなかった家、そしてマッカランの配当が慈善トラストへ向かう話。
スコッチのラベルには、たいてい土地の名前が書かれている。ラガヴーリン、アバフェルディ、アードベッグ——どれもスコットランドの湾や川や岬から採られた名だ。ところが裏ラベルの小さな文字を追うと、そこに現れるのは土地とも一族とも関係のない、多国籍企業の名前だったりする。
いまスコットランドで稼働している蒸溜所は、業界団体スコッチ・ウイスキー協会の一覧でおよそ150。それだけの数がありながら、棚に並ぶ有名銘柄の持ち主をたどると、驚くほど少ない数の会社に行き着く。なぜこうなったのか。そして、それはグラスの中身にとって不幸なことなのか。
名前は土地に残り、持ち主は世界を巡った
最大の持ち主はディアジオで、スコットランドに30ほどの蒸溜所を持つ(モルト蒸溜所だけで28と数える集計もある)。タリスカー、ラガヴーリン、オーバン、クライヌリッシュ——いずれも「蒸溜所の顔」として語られてきた名前だ。
続いて、ペルノ・リカール傘下のシーバス・ブラザーズがザ・グレンリベットやアベラワーなど十数カ所。エドリントンがマッカランとハイランドパーク。サントリー・グローバル・スピリッツがボウモア、ラフロイグ、アードモア、オーヘントッシャン。バカルディ傘下のジョン・デュワー&サンズがアバフェルディやクレイゲラヒ。ブラウンフォーマンがグレンドロナック、ベンリアック、グレングラッサ。
もちろん、150ほどある蒸溜所のすべてが大手のものというわけではない。イアン・マクロードやロッホ・ローモンドをはじめ、中小の持ち主は今も多い。それでも、私たちが「産地ごとの個性」を語り合うときに口にする主要銘柄の大半は、十指に満たない会社の下にある。
なぜ、これほど集まってしまったのか
理由をひとつに絞るなら、ブレンデッドウイスキーだ。19世紀後半にブレンデッドが世界市場を制したとき、ブレンダーにとって死活問題になったのは「決まった味の原酒を、毎年確実に手に入れられるか」だった。市場で買い集めるより、蒸溜所ごと持ってしまうほうが早い。こうしてブレンド会社が蒸溜所を買い、やがてそのブレンド会社同士が合併していった。
その頂点にあったのがディスティラーズ社(DCL)である。1986年、DCLはビール会社ギネスに買収され、翌1987年6月にユナイテッド・ディスティラーズとして再編された。ただしこの買収は気持ちのいい話ではない。ギネスは買収合戦のさなか、自社の株式交換提案を現金提案より魅力的に見せるため、自社株を不正に買い支えていた。これが発覚して大スキャンダルとなり、会長アーネスト・ソーンダーズら4人が有罪判決を受けている。
そして1997年12月、ギネスとグランド・メトロポリタンが合併してディアジオが生まれた。あまりに大きくなりすぎたため、競争当局は条件をつけた。1998年、ディアジオはデュワーズやボンベイ・サファイアといったブランドとともに、アバフェルディ、オルトモア、クレイゲラヒ、ロイヤルブラックラの4つの蒸溜所をバカルディへ手放している。「大きくなりすぎた会社から、蒸溜所が引き剥がされた」という象徴的な出来事だった。

その後も動きは止まらない。ペルノ・リカールは2001年にシーグラム(シーバスリーガル、ザ・グレンリベット)を、2005年にアライド・ドメック(バランタイン)を取得した。2014年にはサントリーがビーム社を約160億ドルで買収し、この会社は2024年にサントリー・グローバル・スピリッツへ改称している。ラフロイグやボウモアが「日本の会社のもの」になったのは、この流れの中でのことだ。
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