なぜミュージシャンは、自分の名前でウイスキーを造るのか——ディランが溶接した鉄の門と、メタリカが樽に流した低音
バンド名を冠したウイスキーは名前貸しなのか。ディランが溶接した鉄の門、メタリカがブランデー樽に浴びせる低周波、そして発売の三か月後に亡くなったレミー——三つの実例から、ミュージシャンとウイスキーの距離を確かめる。
棚の端に、見覚えのあるロゴが載ったウイスキーが並んでいることがある。バンド名がそのままブランド名になった一本だ。
正直に書くと、こういうボトルを見たときの最初の反応は「名前を貸しただけだろう」だった。ミュージシャンの名前は、中身について何も説明していない。
ただ、いくつかの銘柄を追ってみると、話はもう少し面倒だった。瓶の意匠のもとになる鉄細工を本人が組んでいた例もあれば、樽の仕上げに自分たちの音を流し込むところまでやった例もある。そしてその真ん中に、アメリカン・ウイスキーを代表する造り手の一人が立っていた。
音楽の人たちがなぜウイスキーへ来るのか。三つの実例から考えてみたい。
ディランの場合——瓶に写された鉄の門は、本人の作品だった
ボブ・ディランのウイスキー「ヘヴンズ・ドア(Heaven's Door)」は2018年に登場した。名前は1973年の「Knockin' on Heaven's Door」から採られている。ここまではいかにも記念グッズの作りだ。
意外なのはボトルの意匠である。瓶に写された鉄の門は、ディラン自身が手がけた金属彫刻を写したものだ。素材は、農場やスクラップ置き場で拾い集めた農機具や古道具。それを溶接して組んでいる。歌詞を書く人が、溶接機を握って門を作っていたわけである。
共同創業者のスピリッツ起業家マーク・ブシャラは、この金属細工をボトル設計の核だと説明している。そしてブシャラによれば、ディランは「ボブ・ディランのウイスキー」として認識されることを望まなかったという。ブランド名にも本人の名前は入っていない。瓶の図像だけが、遠回りに作者を指している。
報じられている範囲で具体的に語られているのは、ブランドの方向づけと意匠の決定への深い関与である。中身を仕上げているのは職人で、現在のマスターディスティラーはバートン1792などを経たケン・ピアースが務めている。コアレンジは4種類——ケンタッキー・ストレートバーボンの「アセンション」、テネシーの流儀を汲んだ「リバイバル」、二つのストレートバーボンにストレートライを合わせて深く焦がした樽で追熟する「レヴェレーション」、シェリー樽で仕上げたライの「リフュージ」で、拠点はケンタッキー州にある。
これを「本気」と呼ぶかどうかは、人によるだろう。ただ、絵柄を発注して終わりの仕事ではない。
メタリカの場合——音を「製法」の側に入れた
もう一段踏み込んだのがメタリカである。2018年8月、バンドは「ブラッケンド(BLACKENED)」というアメリカン・ウイスキーを発表した。バーボンやライなどをブレンドし、ブラック・ブランデー樽で仕上げる——ここまでは珍しくないカスクフィニッシュだ。
変わっているのはその仕上げのやり方で、そのブランデー樽に音を当てながら寝かせる。
低い周波数の音波を樽へ浴びせる専用のサブウーファーを使い、流すのはバンド自身が組んだプレイリスト。この工程は「BLACK NOISE」と名づけられた。低周波の振動で液体と木の接触を強め、樽材からより多くの成分を引き出す——というのが、説明されている理屈である。
そして、これを思いついたのはバンドではない。デイヴ・ピカレルという造り手だ。
ピカレルによれば、着想は学生時代にさかのぼる。陸軍士官学校の礼拝堂でオルガンが16ヘルツという極低音を鳴らすと、建物を傷めるほどの振動になった。あの低音を樽に使えないか、と考えたわけだ。装置そのものを作ったのは、メタリカのコンサート用音響機器を手がけてきた音響メーカー、メイヤーサウンドの技術者たちで、中身のブレンド設計はピカレルが引き受けた。
そのピカレルは、メーカーズマークで14年にわたってマスターディスティラーを務め、2008年に退いてからは各地の小規模蒸溜所を渡り歩いて、クラフト蒸溜の「ジョニー・アップルシード」と呼ばれた人物である。ライ・ウイスキーのウィッスルピッグを、創業時のマスターディスティラーとして世に出したのも彼だ。
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