なぜスウェーデンでは、ウイスキーが国営の店でしか買えないのか——「売ろうとしない」ことを使命に掲げる酒屋と、日本の棚が自由になるまで
スウェーデンでウイスキーを買える店は、国が100%所有する一社しかない。「利益の最大化も販売促進も使命ではない」と公式に書く酒屋の理屈と、ノルウェー・フィンランド・カナダの線引き、そして日本の売り場が自由になった経緯をたどる。
コンビニの棚から角瓶のポケット瓶を取ってレジに出す。深夜でも、日曜でも、日本のたいていの街ではそれができる。
これが世界の標準だと思っていると、旅先で足をすくわれる。スウェーデンでウイスキーを買える店は、国内にただ一系統しかない。国が100%所有する Systembolaget(システムボラーゲット) だ。
しかもこの会社は、自分たちの公式サイトにこう書いている。利益を最大化することも、販売を促進することも、自分たちの使命ではない、と。
売ろうとしないことを仕事にしている酒屋。それが国の制度として運営されている。この記事では、北欧三国とカナダの「酒の売り場」を並べ、最後に日本の棚がいつ自由になったのかまで見ていく。
スーパーに置けるのは、3.5%以下のビールだけ
スウェーデンのスーパーマーケットにも、酒の棚はある。ただしそこに並べていいのは folköl(フォルクオール) と呼ばれる、アルコール度数3.5%以下のビールだけだ。
気をつけたいのは、この3.5%という数字がビールにしか使えないこと。ワインやシードルは、たとえ度数がそれより低くても、2.25%を超えた時点でスーパーの棚には置けない。ビール以外の酒は、事実上すべてSystembolagetに集まる。
公式の説明によれば、店舗数はおよそ450店とオンラインショップ。1,000万人強の国を、この数で覆っている。
買えるのは20歳から。飲食店なら18歳で飲めるのに、店で買うときだけ2歳ぶん厳しくなる。
営業時間も短い。土曜は昼過ぎに閉まり、日曜日はそもそも開かない。土曜の昼を逃せば、その週末はもう手に入らない。
「売ろうとしない」と公式に書く小売業
ここまでは、ただ不便な話に聞こえる。だが、この仕組みの核心は営業時間ではない。
Systembolagetは、自社サイトの英語ページでこう明言している。
Systembolaget has no mission to maximize profit or promote sales.
(Systembolagetには、利益を最大化する使命も、販売を促進する使命もない)
続けて理由も書かれている。利益動機を取り除くことが、アルコールに関わる医療上・社会上の問題を減らすからだ、と。
だからこの店は、商品を魅力的に見せて客を誘い込まない。酒の広告を打たない。値引きセールもなければ、売った量に応じた報奨の仕組みもない。「もっと売る」ための工夫を、意図的にひとつ残らず捨てた売り場を、国の責任で維持している。
酒を減らしたいなら、酒そのものを禁じればいい。単純なやり方はそれだが、その先に何が起きるかは禁酒法時代のアメリカが示している。売ることは認めたうえで、売る側の動機だけを抜き取る。そう捉えると、この店の姿は少し違って見えてくる。
配給手帳のあった国が、たどりついた形
この発想は、突然生まれたものではない。
20世紀前半のスウェーデンには、モートボック(motbok) と呼ばれる配給手帳があった。医師イヴァン・ブラットの名を取って「ブラット・システム」と呼ばれる仕組みで、手帳を交付された人だけが酒を買え、買った量はその場で記帳される。月の割当を使い切れば、翌月まで待つほかない。
割当は一律ではなかった。性別や年齢、社会的な立場によって差がつけられていたとされる。いま読むとかなり息苦しい制度だが、これが1919年から1955年まで、35年あまり続いた。同種の仕組みはフィンランドにもあり、そちらは1970年まで残った。
分かれ道は1922年の国民投票だった。完全な禁酒に反対する票がわずかに上回り、スウェーデンは禁酒法ではなく配給制の道を選ぶ。そして1955年、手帳による個人の割当は廃止され、代わりに残ったのが「売り場そのものを国が持つ」という現在の形だった。
個人の飲む量を管理するのをやめ、売る側の動機を管理することにした。 北欧の酒屋の姿は、その方針転換の産物として読むと腑に落ちる。
ノルウェーとフィンランド——線を引く高さは国ごとに違う
北欧はどこも同じ、というわけではない。
ノルウェー の独占会社は Vinmonopolet(ヴィンモノポーレット)。公式サイトによれば、保健・ケアサービス省の下に置かれた完全国有企業で、蒸留酒・ワイン・強いビールを消費者へ売る排他的な権利を持つ。
スーパーが扱えるのは4.7%以下まで。しかもノルウェーの酒類法(alkoholloven)は、その4.7%以下の酒ですら売れる時間を定めている。標準は平日8時から18時まで、日曜・祝日の前日は15時まで。自治体の判断で平日20時・日祝前日18時までは延ばせるが、そこが上限だ。そして日曜日は、ビール一本すら売ってはいけない。
フィンランド の Alko(アルコ) は、近年いちばん動いた。2024年6月10日の法改正で、食料品店が売れる発酵酒の上限が5.5%から8%へ引き上げられた。ビールやサイダーの棚は一気に広がった一方、缶入りのミックスドリンク類は5.5%のまま据え置かれ、蒸留酒はAlkoの独占が続いている。
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