ボウモア vs ラフロイグ——同じアイラ、同じ傘下、どちらも自家製麦。それでも煙の質が正反対に分かれる理由
アイラの定番、ボウモア12年とラフロイグ10年。いまは同じサントリー傘下で、どちらも自前の製麦床を残している。それでも一方は浜辺の焚き火、一方は薬品と評される——分かれ道はどこにあるのかを、麦芽と樽、そして熟成庫から読み解く。
アイラの棚の前で、ボウモア12年とラフロイグ10年が並んでいる。価格帯は近く、造られているのは同じ島——ロッホ・インダールに面した島の中央部と、南東部のキルダルトン地区だ。それなのに、飲めば別の酒だ。片方は浜辺の焚き火に潮が混じった穏やかな煙、もう片方は「正露丸」と評される薬品めいた煙が真正面から来る。
さらに面白いのは、この二本に共通点がかなり多いことだ。いまは同じ親会社を持ち、どちらも自前の製麦床を守っている。それでも味は正反対に振れる。分かれ道はどこにあるのか——麦芽と樽、そして熟成庫をたどると、最初の一本の選び方まで見えてくる。
意外な共通点——同じ傘下で、どちらも自家製麦を残している
ボウモアが日本資本に入ったのは早い。1963年にスタンレー・P・モリソンの手に渡り、1989年にサントリーが出資、1994年には全株を取得している。
ラフロイグの道のりはもっと長い。ジョンストン家、ベッシー・ウィリアムソン、シェンリー、ホイットブレッド、アライド系と持ち主が変わり、2000年代半ばにアメリカ資本へ移り、2014年のビームサントリー成立で、先にサントリー傘下にいたボウモアと同じ屋根の下に入った。その会社は2024年にサントリー・グローバル・スピリッツへ社名を変えている。
もう一つの共通点が、フロアモルティングだ。大麦を床に広げて手で返し、自分の窯でピートを焚いて乾かす——手間がかかるため大半の蒸溜所が手放した工程を、両者は部分的に残している。ボウモアは必要量の4割ほどを自社で製麦するとされ(資料によっては25%前後とするものもある)、ラフロイグは2割前後。残りは外部の大手モルトスターから買う。
ただし、この購入分をめぐる事情はここ数年で動いた。アイラのピーテッド麦芽の多くを支えてきた島内のポートエレン製麦所が、所有するディアジオの判断で自社ブランド向けに絞られていったからだ。両蒸溜所を持つ会社もこの件への対応を認めており、ラフロイグは2024年、製麦床の修復を含む大規模な増築計画を申請している。「2割前後」という比率は、この先動く可能性がある。
なお、ボウモアは1779年創業を掲げるが、記録の上で確認できるのは1816年にジョン・シンプソンが免許を取ったところからで、創業年には諸説がある。
分かれ道①——麦芽をどこまで、どう焚くか
最初の分かれ道は、ピートを焚いた麦芽の「フェノール値(ppm)」だ。
ボウモアの麦芽の仕様は25〜30ppmで、アイラの中ではミディアムピートに位置づけられる。対してラフロイグは最低35ppm指定。しかも自社の窯で焚く分はさらに高く、麦芽全体では45〜50ppm前後とする資料もある。
ただし、面白いのは数字の大小だけではない。ラフロイグの自社窯から出る麦芽は、買ってくる麦芽よりも「クレオソート的」な性格を帯びるといわれる。つまり煙の量ではなく質が違う。同じアイラのピートでも、どこで掘った泥炭をどんな温度でどれだけ焚くかで、香りは焚き火寄りにも薬品寄りにも振れる。ボウモアの煙が浜辺の焚き火で、ラフロイグが薬箱に近づくのは、この入口の設計差によるところが大きい。
もう一つ、ppmの読み方には注意がいる。あれは「麦芽の段階」の数字だ。ラフロイグの場合、仕様上の下限である35ppmを基準にしても、蒸溜を終えたニューポットの段階では18ppmとされる。熟成に入る前にもう半分近くまで落ちているわけで、ラベルや紹介文で語られるppmはグラスの中の煙の強さと素直に比例しない(→ウイスキーのppmとフェノール)。アードベッグは50ppmを超える麦芽を使うとされるのに、飲めば甘く感じられる。数字は目安であって、味の順位表ではない。
分かれ道②——煙を何の樽で受け止めるか
二つめの分かれ道は、その煙をどんな甘みで受け止めるかだ。
ラフロイグは、アメリカンオークのバーボン樽を主軸に置く。禁酒法が明けたあとアメリカへ渡ったイアン・ハンターの代から続く選択で、樽が差し出すバニラやココナッツの甘さが、薬品めいた煙を下から支える。長期熟成にはシェリー樽も使うが、土台はあくまでバーボン樽だ。
一方ボウモアは、バーボン樽にシェリー樽を織り込む。定番の12年からしてバーボン樽とシェリー樽の組み合わせで、だから煙の向こうから干し果実やチョコレート、そして南国果実を思わせる甘やかさが顔を出す。「アイラの入口」と呼ばれるゆえんは、この甘さが煙を丸くしているところにある(→なぜボウモアは愛されるのか)。
樽のサイズを動かす手もある。ラフロイグのクォーターカスクは、通常より小さな樽で後熟させて木との接触面積を稼ぎ、短い期間で濃い甘みと香ばしさを引き出す(→樽のサイズ)。度数も48%あり、10年より輪郭がはっきりする。
分かれ道③——熟成庫と設備
ボウモアの熟成庫「No.1 Vaults(ナンバーワン・ヴォルツ)」は、ロッホ・インダールの水面より低い位置にあり、壁の一つは町の防波堤そのものだ。冷たく湿った空気が長期熟成に向くとされる。
ただし、あの潮っぽさを「海の塩が樽を通って移ったもの」と考えるのは行き過ぎだ。塩そのものが木を抜けて酒に入るわけではなく、潮を思わせるのはピート由来のフェノールや口当たりの働きだと説明される(→なぜ海沿いのウイスキーは塩っぽいのか)。
ラフロイグ側は、キルブライド貯水池の水と、7基のポットスチルという構成(前述の増築計画が実現すれば11基になるとされる)。うちスピリッツスチル1基だけが隣の倍ほど大きく、そこから出る酒を他と混ぜることで、あの独特の重さと油っぽさが生まれるとされる。同じ島の同じ工程でも、道具の寸法が変われば酒の性格は変わる。
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