バーボンの国が「シングルモルト」を定義した——2025年に決まったアメリカン・シングルモルトの中身と、スコッチとの三つの違い
2025年1月、アメリカで「アメリカン・シングルモルト」が正式なカテゴリーになった。何が決まったのか、スコッチのシングルモルトとどこが違うのか、そしてケンタッキー以外の州で麦を蒸留してきた造り手たちを紹介する。
スーパーやバーの棚で「アメリカのウイスキー」といえば、バーボン、テネシー、ライ。どれもコーンやライ麦を主役にした酒だ(→アメリカンウイスキーの種類と違い)。
ところが2025年1月19日、アメリカの連邦規則にもうひとつの名前が正式に加わった。アメリカン・シングルモルト・ウイスキー——大麦麦芽100%、つまりスコッチのシングルモルトとまったく同じ原料でつくる、アメリカの麦の酒である。
この記事では、新しく決まった定義の中身、スコッチとどこが同じでどこが違うのか、そしてケンタッキーの外で麦を蒸留してきた造り手たちを見ていく。
2025年1月、条文に二行が加わった
規則を所管するのはTTB(アルコール・タバコ税・貿易局)。最終規則が公示されたのが2024年12月18日、効力を持ったのが翌2025年1月19日である。連邦規則集27 CFR 5.143のウイスキーの表に、「アメリカン・シングルモルト・ウイスキー」と「ストレート・アメリカン・シングルモルト・ウイスキー」の二行が加わった形だ。
条文が求めているのは、次の条件である。
- 大麦麦芽**100%**の発酵もろみで、そのもろみをアメリカ国内で造ること
- 単一の蒸溜所で蒸留すること(アメリカ国内)
- 蒸留時のアルコール度数は160プルーフ(80%)以下(度数をプルーフで表すのがアメリカ流)
- 容量700リットル以下のオーク樽で貯蔵すること。樽は中古樽でも、焦がした新樽でも、焦がしていない新樽でもよい
- 貯蔵はアメリカ国内のみ
- 瓶詰めは40%(80プルーフ)以上
着色料・香味料・ブレンド用の材料は認められない。ただしカラメル色素だけは例外で、使ったらラベルに明記するという条件つきで許されている。EUや英国の規則ではカラメル色素の表示が原則として求められない(→なぜスコッチにはカラメル色素が加えられるのか)ことを思うと、ここはアメリカのほうが厳しい。
そして2年以上熟成させたものだけが「ストレート」を名乗れる。
スコッチと似ている。でも三つ違う
700リットル以下のオーク樽、大麦麦芽100%、単一蒸溜所——並べてみると、スコッチのシングルモルトの条件(スコッチウイスキー規則2009)とよく似ている。ただし、決定的に違う点が三つある。
一つ目は、最低熟成年数がないこと。 スコッチは「スコットランドで3年以上」が絶対条件だが、アメリカン・シングルモルトには年数の下限がない。2年以上のものが「ストレート」を名乗れるだけで、2年に満たなくてもカテゴリーには入る。
二つ目は、ポットスチルの指定がないこと。 スコッチのシングルモルトは単式蒸留器(ポットスチル)を使うことが法で決まっている。アメリカン・シングルモルトにその縛りはなく、代わりに「160プルーフ以下」という上限が置かれた。この二つは無関係ではない。業界団体のアメリカン・シングルモルト・ウイスキー・コミッション(ASMWC)は規則作りの過程で、スコッチのシングルモルトは190プルーフ近く(94.8%未満)まで蒸留できるが同時にポットスチルの使用も義務づけられており、その狙い——穀物の風味を蒸留後に残すこと——は160プルーフという低い上限でも達成できる、と主張している。スコッチ・ウイスキー協会もこの160プルーフ案に賛成を表明した。
三つ目は、仕込み・発酵を同じ蒸溜所でやらなくてよいこと。 スコッチは、麦芽を仕込んで発酵させるところまで「その蒸溜所で」行うことが求められる(しかも糖化は麦芽自身の酵素だけで行う決まりだ)。アメリカン・シングルモルトが単一の施設に縛るのは蒸留だけで、もろみは「アメリカ国内で造られたもの」でありさえすればよい。
なぜ「仕込みは別の場所でいい」ことにしたのか
これは書き落としではなく、はっきり議論された末の結論だった。
そもそも2017年10月、XOアランビック、レミー・コアントロー、ウェストランド蒸溜所の3社が、当時75社以上を擁したASMWCとともにTTBへ出した請願は、「単一のアメリカの蒸溜所で、仕込み・熟成・蒸留を行うこと」を求めていた。つまり請願者が最初に望んだ定義のほうが、実際にできあがった規則より厳しかった。
考えを変えたのは、ほかならぬASMWC自身である。同会はその後、TTBの別の規則案に寄せた意見のなかで「仕込み・蒸留・熟成はアメリカ国内で行うが、単一蒸溜所を求めるのは蒸留だけでよい」という修正案を出した。130社以上の造り手がこの案を支持したという。2022年7月29日にTTBが公示した規則案は、この修正案をほぼそのまま採ったものだった。
案に対しては158件の意見が寄せられ、仕込みの場所が最大の論点のひとつになった。米国蒸留酒協議会(DISCUS)は、仕込みも同じ施設で行わせるべきだ、そのほうが消費者の理解に合い世界市場で対等に立てる、仕込みを別の場所で許せば〈シングルモルト〉という言葉と生産地のつながりが失われる、と主張した。
このコラムの関連
関連するボトル

次に読む

スコッチの隣で造られる、イングランドとウェールズのウイスキー——ウェールズは2023年に名前を守り、イングランドは「シングルモルト」の一語で揉めている
スコットランドの隣にも、1世紀の空白から甦ったウイスキーの産地が二つある。ウェールズは2023年に英国初の蒸留酒GIを勝ち取り、イングランドは4年以上申請中のまま。争点は「シングルモルト」という一語の読み方だった。

グレンフィディック12年 vs バルヴェニー ダブルウッド12年——同じ泉の水で仕込む隣どうしが、なぜ味も値段も違うのか
同じ敷地、同じ泉の水、同じ一族。それでもグレンフィディックとバルヴェニーの味は驚くほど違う。1963年と1973年という10年の時差、スチルの形、樽の使い方——二本を分けている理由を具体的にたどる。




