スコッチの隣で造られる、イングランドとウェールズのウイスキー——ウェールズは2023年に名前を守り、イングランドは「シングルモルト」の一語で揉めている
スコットランドの隣にも、1世紀の空白から甦ったウイスキーの産地が二つある。ウェールズは2023年に英国初の蒸留酒GIを勝ち取り、イングランドは4年以上申請中のまま。争点は「シングルモルト」という一語の読み方だった。
スコッチ、アイリッシュ、バーボン、カナディアン、ジャパニーズ。5大ウイスキーの顔ぶれは、もうすっかり定着している。だがスコットランドのすぐ隣にも、ウイスキーを造っている土地が二つある。イングランドとウェールズだ。
どちらもいったん1世紀ほど途絶え、今世紀に入ってから復活した。そしていま、片方は自分の名前を法律で勝ち取り、もう片方は隣の巨大産地から待ったをかけられて足踏みしている。争点はただ一語、**「シングルモルト」**である。
この記事では、二つの産地の成り立ちと、その一語をめぐって何が起きているのか、そして日本でも手に入る一本の選び方までを追う。
ウェールズ——途絶えた1世紀を、2004年3月1日に終わらせた
ウェールズ最初の蒸留所フロンゴホが建ったのは1887年のこと。その系譜が完全に途切れたあと、1990年代末にウェールズの谷あいのパブで、ウイスキーを取り戻そうという話が持ち上がった。
2000年9月14日、ペンダーリン蒸留所で蒸留が始まる。そこに据えられたのがファラデー・スチル——サリー大学のデイビッド・ファラデー博士(19世紀の科学者マイケル・ファラデーの縁者にあたる)の指導で設計された、変わった蒸留器だった。
モルトウイスキーは普通、初留用と再留用のポットスチルを並べ、二度に分けて蒸留する。ファラデー・スチルは銅のポットに精留用のカラムを組み合わせた構造で、一度通すだけで92%前後まで引き上げてしまう。度数を高く取るほど、重い成分は留出しきらずに後ろへ取り残される。だからペンダーリンの酒質は軽く、果実味が前に出る。
そして2004年3月1日、ウェールズの守護聖人を祝う聖デイビッドの日。当時のチャールズ皇太子(現国王)が立ち会うなか、最初の一本「Penderyn Aur Cymru(ウェールズの黄金)」が世に出た。

いまペンダーリンは、ブレコン・ビーコンズ(2000年)、ランディドノ(2021年)、スウォンジー(2023年)の3か所に蒸留所を持ち、50か国以上へ輸出している。そして2026年の聖デイビッドの日には、2000年に詰めた最初期の樽から25年ものを出した。22年前と同じ日付を選んだあたりに、この蒸留所の律儀さが出ている。
2023年7月、ウェールズは名前を法律で守った
2023年7月24日、「Single Malt Welsh Whisky(Wisgi Cymreig Brag Sengl)」が英国の地理的表示(GI)に登録された。英国のGI制度が始まって以来、蒸留酒としては初めての登録である。申請したのは、ペンダーリンほか Aber Falls、Dà Mhìle、Coles、In the Welsh Wind の5蒸留所からなるウェールズ・ウイスキー協会で、提出は2021年8月12日。登録まで2年近くかかった。
このコラムの関連
関連するボトル
次に読む

バーボンの国が「シングルモルト」を定義した——2025年に決まったアメリカン・シングルモルトの中身と、スコッチとの三つの違い
2025年1月、アメリカで「アメリカン・シングルモルト」が正式なカテゴリーになった。何が決まったのか、スコッチのシングルモルトとどこが違うのか、そしてケンタッキー以外の州で麦を蒸留してきた造り手たちを紹介する。

グレンフィディック12年 vs バルヴェニー ダブルウッド12年——同じ泉の水で仕込む隣どうしが、なぜ味も値段も違うのか
同じ敷地、同じ泉の水、同じ一族。それでもグレンフィディックとバルヴェニーの味は驚くほど違う。1963年と1973年という10年の時差、スチルの形、樽の使い方——二本を分けている理由を具体的にたどる。





