ジョニーウォーカー 赤ラベル vs 黒ラベル——違いは「12年」だけではない。二本のうち赤だけが本国の棚から消えた1970年代
同じ棚に並ぶ赤と黒。違いはラベルの色と「12年」の三文字だけに見えて、1970年代の終わりには赤だけがイギリス国内から引き揚げられ、黒は値上げして残された。欧州委員会との衝突が二本を分けた顛末と、いまの選び分けを整理する。
スーパーの棚でも、コンビニでも、たいてい隣どうしに並んでいます。ジョニーウォーカーのレッドラベルとブラックラベル。瓶の形は同じ、度数も同じ40%、違うのはラベルの色と、黒にだけ書かれた「12年」の三文字。それで実売価格は2倍前後の開きになります。
「じゃあ、12年ぶんの値段か」と考えたくなるところですが、この二本の関係はもう少し込み入っています。しかも1970年代の終わり、二本のうち赤だけが本国イギリスの棚から消え、黒は値上げして残されたという時期がありました。味の優劣で分かれたのではありません。価格をめぐる法律の話で分かれています。
この記事では、赤と黒の違いをラベルの表記・中身・向く飲み方で整理したうえで、二本の運命が正反対に分かれたその数年間をたどります。
ラベルに書いてある違いと、書いていない違い
まず、書いてあるほうから。
黒の「12年」は、ブレンドに使った原酒のうち、いちばん若いものが12年以上熟成しているという意味です。40種類を混ぜていようと、1種でも11年が入っていれば12年とは名乗れない。つまりこの表記は、平均でも主役でもなく下限の宣言です。
赤には年数表記がありません。これは「若い酒だけ」という意味ではなく、下限を約束していないということ。12年を超える原酒が含まれないという意味でもありませんが、数字で縛られない自由を取っている、と読むほうが実態に近いでしょう。
使われている原酒の数は、赤についてはブランドが公表しています。最大35種で、カーデュやカリラといった主要な原酒の名前も明かされています(配合比率は当然ながら非公開です)。黒はおよそ40種と紹介されることが多いものの、こちらは公式の数字として確認できません。
もっとも、本数の多寡を競っても意味はありません。35と40の差より、「下限が12年に底上げされているかどうか」のほうが、飲んだときの印象をはるかに大きく左右します。
下限が上がると、若い原酒が持ち込む荒さが引き算されます。黒の口当たりが丸く、余韻が長く感じられるのはそのためです。逆に赤は、若さ由来の勢いがそのまま輪郭になっている。

いまの赤は、「割る一杯」として売られている
もうひとつ、値段だけを見ていると見落とす違いがあります。造り手が赤をどう売っているかです。
ジョニーウォーカーは現在、赤についてカクテルやハイボールに混ぜる用途を正面から打ち出しています。度数40%のスコッチを炭酸やジンジャーエールで4〜5倍に薄めると、繊細な味わいは薄まり、輪郭のはっきりした要素だけが残る。赤はその条件下でも消えずに立ち上がってきます。
このコラムの関連
関連するボトル


次に読む

週70時間のバーボン工場と、12人のエンジニア——ウイスキーの現場で争われている「時間」
スコッチとバーボンの現場では、この10年ストライキがくり返されてきた。争われているのは賃上げだけではない。残業、シフト、そして「休暇1日=7時間12分」という計算式だ。

なぜスコッチの蒸溜所は、1回の蒸溜を3分で終えたのか——酒ではなく「スチルの容量」に税をかけた法律
18世紀の末から19世紀の初め、ローランドには1回の蒸溜を3分で終えた蒸溜所があった。税額が造った酒の量ではなく「スチルの容量」で決まったため、造り手は浅く広い皿のようなスチルを回し続けた。制度が酒の形を変えた記録。






