なぜアバフェルディは「デュワーズの心臓」と呼ばれるのか——砂金を含む渓流が育てた、蜂蜜色のハイランドモルト
ハイボールの定番デュワーズの味を支える「心臓」が、ハイランドのアバフェルディ。砂金を含む渓流ピティリー・バーンの水と蜂蜜のような甘い原酒、そして100年の裏方から1999年にシングルモルトへ独立するまでをたどります。
スーパーやコンビニでよく見かける、白地に赤い「デュワーズ」。ハイボールの定番として知られるこのブレンデッドスコッチには、味の背骨を担う一つの蒸留所がある。ハイランドのアバフェルディだ。「ゴールデン・ドラム(黄金の一杯)」と呼ばれ、蜂蜜のような甘さで知られながら、長らく表に出ることのなかった裏方の名手——。この記事では、なぜアバフェルディが「デュワーズの心臓」と呼ばれるのかを、その水・酒質・歴史からたどる。
ブレンドのために建てられた蒸留所
シングルモルトの名で親しまれる今の感覚からすると意外だが、19世紀の蒸留所は、そもそもブレンド用のモルトを供給するために建てられるのが普通だった。アバフェルディも、その典型として生まれている。1896年、デュワーズを世界に広めたジョン・デュワー社が、自社ブレンドの中核となるモルトを確保するために建てた蒸留所で、最初のスピリッツが流れたのは1898年11月。以来100年余り、その原酒はほとんどがブレンド用に消えていった。

いまもアバフェルディは、デュワーズのブレンドで最も比率の大きいモルト——文字どおりの「心臓」であり続けている。デュワーズを飲んだときのあの角の取れた丸さの一端は、この蒸留所の甘い原酒に負っている。
砂金を含む渓流「ピティリー・バーン」
アバフェルディの仕込み水は、蒸留所のわきを流れる小さな渓流ピティリー・バーンから引かれている。この水を使う蒸留所は、スコットランドでここだけだと言われる。
そしてこの渓流は、微量ながら砂金を含むことで知られる。ヴィクトリア朝の頃には、地元で砂金採りが娯楽として楽しまれたという。「ゴールデン・ドラム」という愛称は、ウイスキーの黄金色の見た目とまろやかな甘さ、そしてこの“金を含む水”の両方に由来する。もっとも、採れる金は商売になるような量ではなく、あくまで土地の物語としての金である。
蜂蜜のような甘さは、どこから来るのか
アバフェルディの個性は、なんといっても蜂蜜を思わせるまろやかな甘さと、洋梨やトロピカルフルーツのような果実感にある。沿岸から離れた内陸ハイランドに位置するため、スペイサイドの華やかさよりも、麦芽由来のふくよかさとコクが前に出る。この穏やかで甘い酒質こそ、炭酸で割っても風味が痩せず、ハイボールの土台として重宝された理由でもある。
その甘みは一朝一夕には生まれない。時間をかけた長い発酵と、すらりと背の高い蒸留器がもたらす軽やかで澄んだ酒質が、風味の土台になると説明される。まずはその原点を12年で確かめたい。
このコラムの関連
関連するボトル


次に読む

なぜサントリーは約1.6兆円でジムビームを買ったのか——キリンとの統合破談から4年、「洋酒で世界へ」の賭け
2014年、サントリーは米ビーム社を負債込み約160億ドルで買収した。縮む国内市場、キリンとの統合破談、以前からの販売提携、伸びるウイスキー。発表資料と当時の報道から、日本の会社がバーボンの雄を買った理由をたどる。

なぜベンリアックは、スペイサイドなのにピートを焚くのか——65年眠った蒸溜所と、ブレンドの裏方だった「煙」
華やかなスペイサイドで、毎年「煙の季節」を設けるベンリアック。ピート蒸溜はいつ、なぜ始まったのか。公式年表と資料の食い違いを整理し、本土の泥炭が生む甘い煙と、オリジナル・テン/スモーキー・テンの飲み比べ方まで案内する。







