なぜバーボンはスコッチより安いのか——高いのは「シングルモルト」のほう。蒸溜器・トウモロコシ・暑い倉庫が値札を分ける
定番バーボンは1,000円台、12年もののシングルモルトは数千円。差を生むのは産地ではなく造り方です。単式か連続式か、トウモロコシか麦芽か、熟成の速さ、新樽という逆風、規模、そして日本では関税で説明できない理由まで解きほぐします。
酒屋の棚で、バーボンとスコッチのシングルモルトを見比べると、値札に数倍の開きがあることがあります。ジムビームのような定番バーボンは1,000円台から並び、12年もののシングルモルトは数千円。同じ「ウイスキー」なのに、なぜここまで差がつくのでしょうか。
この記事では、その差がどこから生まれるのかを、蒸溜・原料・熟成・樽・規模の順にほどいていきます。先に結論を言うと、安いのは「バーボンだから」ではありません。 比べる相手を取り違えると、答えも見誤ります。
まず確認:スコッチにも安いものはある
最初に押さえておきたいのは、スコッチがすべて高いわけではない、という点です。ジョニーウォーカー レッドラベルのようなブレンデッドスコッチは、定番バーボンとほぼ同じ価格帯に並んでいます。

アメリカの専門メディアの比較でも、ジムビームとジョニーウォーカー レッドの店頭価格の差は約7ドルとされています。差が大きく開くのは、バーボンと「シングルモルト」を並べたときです。
ですから、本当の問いは「なぜバーボンは、シングルモルトより安く造れるのか」になります。
理由1:蒸溜器が違う——単式か、連続式か
まず大きいのは蒸溜の方式です。
スコッチのシングルモルトは、スコッチ・ウイスキー規則(2009年)で単式蒸溜器(ポットスチル)によるバッチ蒸溜が義務づけられています。一回ごとに仕込み、蒸溜し、釜を空にして次に移る。手間も時間もかかる造り方です。
一方のバーボンに、蒸溜器の種類の決まりはありません。多くの蒸溜所は、もろみを流し込み続けながら蒸溜できる**連続式蒸溜機(コラムスチル)**を使っています。止めずに回せるぶん、同じ人手と時間で造れる量が大きく違います。
ちなみに、安いブレンデッドスコッチの大部分を占めるグレーンウイスキーも、連続式で造られています。つまり価格を分ける大きな要因の一つは、国ではなく蒸溜の方式だということになります。
理由2:原料のトウモロコシが安い
バーボンは、原料の51%以上をトウモロコシにすることが米国連邦規則で定められています。トウモロコシは大量に収穫される穀物で、ケンタッキーの蒸溜所は近くの農地から調達できます。
フォアローゼズの元マスターディスティラー、ジム・ラトリッジ氏は、6年熟成・90プルーフのバーボンなら、トウモロコシの原価は1本あたり約0.19ドルだと見積もっています。原料費は、ボトルの値段からすればごくわずかです。
シングルモルトは、大麦麦芽(モルト)だけで造ります。大麦をいったん発芽させ、乾燥させる「製麦」の工程を経た原料で、そのぶん手間がかかります。ジムビームのフレッド・ノー氏も、スコッチ側はピートの切り出しや大麦の乾燥にコストがかかる、という趣旨の発言をしています(作り手側の見方として読むのがよいでしょう)。
このコラムの関連
関連するボトル


次に読む

なぜウイスキーの生産量は「純アルコール」で数えるのか——「年1,500万リットル」はボトル何本分? 税金と度数が決めた物差し
蒸溜所の「年間生産能力1,500万リットル」は、瓶に詰める液体の量ではない。水を除いた純アルコール(LPA)の量だ。度数が工程ごとに変わり、税金も純アルコールに掛かるから。ボトル本数への換算法と、日本の酒税との意外な共通点まで解説する。

バーボン樽熟成ウイスキーのおすすめ5選——バニラの甘さは「何回目の樽か」で変わる。樽の甘さ・素顔・煙で選ぶ
スコッチの多くを支えるのに、ラベルではあまり目立たない「バーボン樽」。バニラやココナッツの甘さがどこから来るのか、ファーストフィルとリフィルで何が変わるのかを整理し、オーヘントッシャン アメリカン・オークからラフロイグ10年まで、樽の甘さ・蒸溜所の素顔・煙の3つの軸で5本を紹介します。







