オールドの性格を決めているのは、山崎蒸溜所のシェリー樽原酒だ。現行品の紹介では、この原酒をたっぷり使い、かつてのオールドのキーモルトだったシェリー樽をさらに強めて、まろやかに仕上げたと説明されている。
シェリー樽は、レーズンやプラムのような、こっくりとした甘さを酒に移しやすい(→シェリー樽とバーボン樽の違い)。オールドを飲んで最初に感じる丸い甘さは、この樽から来ている。
もちろんオールドもブレンデッドなので、ほかのモルトやグレーン原酒も使われている。そのうえで、味の方向を決める「軸」として前に出ているのが山崎のシェリー樽原酒だ、という意味である。
販売店の紹介文には「水割りにすると甘みがより感じられ、和食に良く合う」とある。1970年代に和食の店へ水割りで売り込まれ、国民的な一本になった歴史とも、ぴたりと重なる設計だ(→サントリーオールドが「だるま」と呼ばれる理由)。
スーパーニッカのほうは、一つの樽ではなく三つの原酒の組み合わせで語られる。ニッカの公式な商品説明によれば、余市のモルト、宮城峡のモルト、そしてカフェグレーンの三種類をブレンドしている。
- 余市のモルト:石炭直火で蒸留する、力強くわずかにスモーキーな原酒
- 宮城峡のモルト:華やかでやわらかな原酒
- カフェグレーン:旧式の連続式蒸留機「カフェスチル」で造る、甘く厚みのあるグレーン
販売店の紹介文が挙げる特徴は「バニラやチョコレートを感じる、甘い樽の香り」。同じ「甘い」でも、オールドの干しぶどうのような甘さとは方向が違う。筆者の印象では、スーパーニッカには奥のほうにかすかな煙があり、それが甘さを引き締めている。
カフェグレーンがどんな原酒なのかは、単体で瓶詰めされた一本を飲むとよく分かる(→カフェグレーンとカフェモルトの違い)。
ここが、この比較でいちばん面白いところだ。
いまのスーパーニッカを支える三つの原酒のうち、1962年の時点ですでにあったのは余市のモルトだけだった(初号の詳しい配合は公表されていない)。宮城峡蒸溜所が生産を始めたのは1969年。カフェスチルの導入は1963年(本格稼働を1964年とする資料もある)で、しかも最初は西宮の工場に置かれ、宮城峡へ移されたのは1999年のことだ。
つまりスーパーニッカは、ニッカという会社が蒸溜所と蒸留機を増やしていくのに合わせて、中身の柱を一本ずつ足してきたブランドだと言える。2015年に初号の味を再現した復刻版が出たときには、当時のピート香を出すため、ヘビーピートの余市モルトが使われたと紹介されている。初号は、いまよりスモーキーな酒だったらしい。
二本は、世に出るまでの事情も対照的だ。
オールドの原型は1940年に完成していた。ところが戦時下で発売は見送られ、店に並んだのは1950年。完成から10年待たされた酒である。
スーパーニッカは、喪失から生まれた。1961年1月17日、ニッカ創業者・竹鶴政孝の妻リタが亡くなる。政孝は葬儀にも出られないほど打ちひしがれたと伝えられるが、やがて養子の威とともに余市の研究室と貯蔵庫にこもり、翌1962年に一本のブレンデッドを完成させた。それがスーパーニッカだ(→リタが「日本ウイスキーの母」と呼ばれる理由)。
発売時の価格は3,000円。大卒初任給が1万円台(資料によって1万5,000〜1万8,000円ほどと幅がある)の時代だから、相当な高級品である。瓶は各務クリスタル製作所(現・カガミクリスタル)のセミクリスタル製で、一本ずつ手で吹いて作られた。生産は年に1,000本ほどに限られ、「幻のウイスキー」とも呼ばれたという。手吹きの瓶は1971年のリニューアルで機械吹きに替わり、量産の時代に入っていく。
ここからは筆者の見立ても交えて、選び分けの目安をまとめる。
オールドを選びたい夜
- 水割りで、だしの効いた和食と一緒にゆっくり飲みたい
- 干しぶどうのような、丸くこっくりした甘さが好き
- 煙っぽさは要らない
水割りは1:2〜2.5が出発点になる(→水割りの作り方)。43%あるので、少し薄めに作っても味が痩せにくい。
スーパーニッカを選びたい夜
- ロックやハイボールで、香りの層を楽しみたい
- バニラ系の甘さに、ほんのり煙が混じるのが好き
- 余市や宮城峡のシングルモルトへ進む前に、ニッカの「家の味」を知りたい
ハイボールにすると、カフェグレーン由来の甘さが炭酸に乗って広がる。迷ったら、同じ比率の水割りを二杯並べて飲み比べるのがいちばん早い。シェリーの丸さと、三つの原酒の層の違いが、はっきり分かれるはずだ。
サントリーオールドとスーパーニッカは、同じ43%で、同じように昭和の「一段上」を担ってきた。しかし中身は、山崎のシェリー樽という一本の軸と、余市・宮城峡・カフェグレーンという三本の柱という、まったく違う組み立てだ。
前者は戦争で10年待たされて世に出て、水割りの時代の主役になった。後者は一人のブレンダーが妻を失った悲しみの中から生まれ、会社が大きくなるにつれて柱を増やしてきた。
それぞれのメーカーの並びは、サントリーウイスキーの種類と選び方とニッカウヰスキーの種類と選び方にまとめてある。オールドと角瓶の違いは角瓶とオールドの比較で扱った。