白州と駒ヶ岳は何が違うのか——同じ「駒ヶ岳」の麓に建つ二つの山の蒸溜所、16基と2基で分かれた道
甲斐駒ヶ岳の麓の白州と、木曽駒ヶ岳の麓のマルス駒ヶ岳。花崗岩の軟水、木の発酵槽とよく似た二つの山の蒸溜所は、規模・加熱・冷却・樽と熟成地で分かれた。設備から味の違いと選び方を整理する。
サントリーの白州と、本坊酒造のマルス駒ヶ岳。どちらも「山の蒸溜所」のシングルモルトで、メーカーの参考価格もほぼ同じ価格帯に並びます。白州が手に入らないとき、棚で駒ヶ岳に手が伸びた——という人もいるかもしれません。
実はこの二つ、背負っている山の名前まで同じです。白州は南アルプスの甲斐駒ヶ岳の麓。駒ヶ岳蒸溜所は中央アルプスの木曽駒ヶ岳の麓。どちらも花崗岩をくぐった軟水で仕込み、どちらもダグラスファー(ベイマツ)の木桶で発酵させています。
それでも、二本を並べて飲むと方向は違います。この記事では、よく似た条件の二つの蒸溜所がどこで分かれたのかを、設備と規模から整理し、最後にどちらを選ぶかの目安をまとめます。
似ているところ——二つの駒ヶ岳、花崗岩の水、木の発酵槽
まず共通点から見ておきましょう。
- 標高:白州は約700m(1973年完成)、駒ヶ岳は798m(1985年開設)。どちらも日本の蒸溜所としては高い場所にあります。
- 水:白州は甲斐駒ヶ岳水系の、花崗岩を通った硬度約30の軟水。駒ヶ岳は蒸溜所の地下120mから汲む、花崗岩層でろ過された天然の軟水です。
- 発酵槽:白州はダグラスファーの木桶が18基。駒ヶ岳はステンレス3基とダグラスファーの木桶3基を併用しています。
木桶には乳酸菌などが住み着き、発酵の後半に香りの複雑さを足すと言われます(→なぜ発酵槽は「木製」と「ステンレス」で分かれるのか)。冷涼な山、軟水、木の発酵槽。ここまでは、驚くほどよく似ています。
なお、マルスと山梨の縁も意外に深いものです。本坊酒造は1960年、竹鶴政孝をスコットランドへ送り出した岩井喜一郎の設計・指導のもと、山梨で本格的なウイスキーづくりを始めました。1985年に設備ごと長野へ移ったのが、いまの駒ヶ岳蒸溜所です。
分かれ道① 規模——16基の白州、2基の駒ヶ岳
いちばん大きな違いは、蒸溜所の大きさです。
白州のポットスチルは16基(初留8基・再留8基)。しかも形がそろっていません。初留はストレート型5基とランタン型3基、再留はストレート型6基とランタン型2基という混成です。発酵槽も1基あたり約7万5,000リットルあります。
駒ヶ岳のポットスチルは、初留1基と再留1基の2基だけ。発酵槽は1基あたり約7,000リットルで、容量で比べると白州のおよそ10分の1です。2014年に新しく据えられたスチルは、岩井喜一郎が設計した初代の形を再現したストレート型だとされています。
白州の原酒は、白州というシングルモルトになるだけでなく、響や角瓶といったブレンデッドも支えています。形の違う釜を並べて、重めの原酒と軽めの原酒を一つの蒸溜所の中で造り分ける。大きなブレンデッドを抱える会社の、二つ目のモルト蒸溜所らしい設計です(→なぜスチルの形でスピリッツの味が変わるのか)。
駒ヶ岳は、一組のスチルで丁寧に造る蒸溜所です。原酒の幅は釜の形ではなく、後で見る麦芽と樽、そして熟成地の側で作っています。
分かれ道② 火と冷却——白州は直火、駒ヶ岳は蒸気
加熱の方式も違います。白州の初留釜はガスの直火で焚かれています。炎で直接あぶると釜の底が高温になり、香ばしさやコクのもとになる成分が生まれます(→なぜ直火焚きのウイスキーは香ばしく重厚になるのか)。爽やかな印象の白州が、実は重さを生む工程を抱えているわけです。
駒ヶ岳は初留も再留も蒸気で加熱します。釜底が局所的に高温にならない、穏やかな加熱です。
ところが冷却では、立場が入れ替わります。駒ヶ岳は再留釜の冷却に、昔ながらのワームタブを使っています。銅との接触が少なく、重みのある原酒になりやすい方式です(→なぜワームタブは重い酒を生むのか)。白州にもワームタブはありますが、初留の8基のうち1基だけで、残りは現代的なシェル&チューブです。
加熱で重さを足す白州と、冷却で重さを足す駒ヶ岳。どちらも「軽いだけ」にならない仕掛けを、別々の工程に置いています。
分かれ道③ 麦芽と樽——幅をどこで作るか
麦芽のピートも見ておきましょう。白州はノンピートから40ppmまでの麦芽を使い分けます。ppmは麦芽に含まれる煙の成分の目安です(→ウイスキーの「ppm」とは)。駒ヶ岳はノンピートと、50ppmのヘビリーピート麦芽を使います。煙の強い原酒を持っている点では、駒ヶ岳も負けていません。
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