世界でいちばん飲まれている蒸留酒は、ウイスキーではない——白酒(バイジウ)と分かれた四つの道
世界でもっとも多く飲まれている蒸留酒は、ウイスキーでもウォッカでもなく中国の白酒。麦芽を使わない糖化、水を張らない発酵、穀物ごとの蒸留、木樽を使わない熟成——伝統的な白酒とウイスキーが分かれた四つの道をたどります。
日本のバーや酒販店の棚を眺めても、まず見かけない酒があります。中国の**白酒(バイジウ)**です。それでいて、量で数えれば世界でいちばん飲まれている蒸留酒はウイスキーでもウォッカでもなく、この白酒。調査会社IWSRの集計をもとにした報道では、世界の蒸留酒販売のおよそ3分の1を占め、しかもそのほとんどが中国国内で消費されるとされます。外から見えていないだけで、実は最大勢力なのです。
この記事では、白酒とウイスキーを「味の好み」ではなく造りの分岐点で並べます。デンプンを何で糖に変えるか、もろみを液体にするかどうか、蒸留のかけ方、そして何に詰めて寝かせるか。四つの分かれ道をたどると、同じ「穀物の蒸留酒」がここまで違う姿になった理由が見えてきます。
まず、規模を確かめておく
中国国家統計局の集計では、2023年の白酒の生産量は449.2万キロリットル(一定規模以上の企業、アルコール分65度換算)。一方、スコッチウイスキー協会(SWA)が公表した2024年のスコッチ輸出量は、700ml瓶に換算して14億本——体積にすると約98万キロリットルです。
生産量と輸出量、度数換算の有無——集計の基準は揃っていません。それでも体積で4〜5倍の開きがあり、しかも歪みの向きは白酒を小さく見せる側です。白酒側は65度に換算した数字、スコッチ側は40%前後の瓶の容量ですから、純アルコールで揃え直せば差はむしろ広がります。
ひとつ断っておくと、「白酒」という語の外縁はかなり広い。中国の国家標準は、穀物を固体のまま発酵させる固態法だけでなく、食用アルコールを用いる液態法(GB/T 20821)や、両者を混ぜる固液法(GB/T 20822)も白酒に含めています。以下で見ていくのは、白酒を白酒たらしめている伝統的な固態法の造りです。
分かれ道①:デンプンを糖に変えるのは、麦芽か、カビの塊か
穀物のデンプンは、そのままでは発酵しません。誰かが糖に分解する必要があります。
ウイスキーはその役目を麦芽に負わせます。大麦をわざと発芽させ、そのとき生まれる酵素で自分自身のデンプンを糖に変える。大麦を発芽させる理由は、突き詰めればこの酵素のためでした。
白酒が使うのは曲(チュー)。日本の「麹(麴)」の簡体字です。穀物を砕いて水で練り、固めて置いておくと、原料や空気に由来するカビ・酵母・細菌が内にも外にも住みつく。この微生物の塊が、そのまま糖化と発酵のスターターになります。小麦を主体にした大きな塊の大曲と、米粉などを使う小さな小曲があり、大きさだけでなく育つ菌の顔ぶれも違います。
もっとも、カビに糖化を任せること自体は東アジアでは珍しくありません。清酒も、焼酎も、泡盛も麹の酒です。ただ、それらが純粋培養した種麹を蒸米に生やすのに対し、曲は環境にいる菌をそのまま呼び込む。違いは、曲の作り方からしてすでに始まっています。
ウイスキーは糖化を麦芽の酵素に、発酵を選び抜いた酵母に任せ、酵母の株ひとつで香りが変わるところまで管理します。白酒は逆に、素性の定まらない微生物の群れごと仕込みに引き入れる。管理の思想が正反対なのです。

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