ジャパニーズの隣で何が起きているのか——中国と韓国が本気で造り始めたモルトウイスキー
ニューワールドウイスキーといえば台湾とインドだったが、いま造り手の動きが最も激しいのは日本のすぐ隣だ。韓国初のシングルモルトを生んだソウル郊外の蒸溜所と、ペルノ・リカールとディアジオが山に建てた中国の蒸溜所。どこまで進み、どこからが未完なのかを事実と数字で整理する。
ニューワールドウイスキーといえば、これまでは台湾のカバランとインドのアムルットだった。5大ウイスキーの外側から本場を脅かす存在として、この20年で完全に市民権を得た顔ぶれである。
だが、いま造り手の動きが最も激しいのは、もっと近い場所だ。日本のすぐ隣——中国と韓国が、この5年ほどで本格的なモルトウイスキー造りを始めている。しかも片方は個人が始めた小さな蒸溜所から、もう片方は世界の二大酒類企業が数百億円を投じる形で参入した。
ただし「もう名品が棚に並んでいる」という話ではない。韓国の一本はまだ生まれたばかりで、中国が本命とするシングルモルトは樽の中にある。 この記事では、両国でいま実際に何が起きているのか——どこまで進んでいて、どこからが未完なのかを、事実と数字で整理する。読み終える頃には、5大ウイスキーという地図が描き替えられつつあることが見えてくるはずだ。
韓国初のシングルモルトは、ソウルの北東30kmで生まれた
韓国で最初の本格的なシングルモルト蒸溜所は、ソウルの北東およそ30km、南楊州(ナムヤンジュ)の山あいにある。
始めたのは、ブライアン・ドゥという韓国系アメリカ人の起業家だ。ニュース番組のキャスターやマイクロソフトの幹部を経てビール醸造に移り、2018年ごろから蒸溜所の構想を練って、2020年に操業へこぎつけた。造りの責任者として招いたのは、スコットランド人のアンドリュー・シャンド。グレンリベットをはじめとするスコットランドの現場や日本のニッカでの経験を含め、40年以上をウイスキー造りに費やしてきた人物である。
蒸溜所の当初の名は「スリー・ソサエティーズ」。創業者の韓国とアメリカ、そして造り手のスコットランド——三つの文化が交わる場所という意味だった。2024年11月、主力銘柄の名を取って「Ki One(キ・ワン)蒸溜所」へ改称している。기원(キウォン)は韓国語で「起源」、そして「祈り・願い」に通じる言葉だ。
最初のボトルが世に出たのは2023年の初め。アメリカン・バージンオーク(新樽)で熟成させた一本で、蒸溜所には300人ほどの行列ができ、36時間近く並んだ客もいたと報じられている。翌2024年には、オロロソ・シェリー樽で寝かせた一本がワールド・ウイスキー・アワードの「ベスト・コリアン・シングルモルト」に選ばれた(品評会の仕組みは世界一のウイスキーはどう決まるのかで解説している)。
現在の定番は、シェリーやワイン樽を使う「Tiger」、新樽とバーボン樽の「Eagle」、そしてピーテッドの「Unicorn」という三本柱だ。
ブームは一巡した。だが残ったものがある
なぜ韓国で、このタイミングだったのか。答えは造り手側ではなく、飲み手側にある。
韓国のウイスキー輸入は2021年まで縮小傾向だった。それが2022年に急反転する。関税庁の統計で見ると、輸入量は2021年の約1万5,700トンから2022年に約2万7,000トン、2023年には約3万600トンと過去最高を記録した。牽引したのは高級酒としてのウイスキーではなく——ハイボールだ。
コロナ禍でクラブやバーの需要が消えたとき、輸入業者は飲食店にハイボールサーバーを置いて回った。ビールより糖質やカロリーを抑えられること、そして割れば度数が穏やかで飲みやすいこと。健康志向と手軽さの両方が若い世代に刺さり、ウイスキーは「高くて手の届かない酒」から日常の一杯へと位置を変えた。日本でハイボールが市場そのものを作り直したのと、驚くほど似た経路である。
ただし、その熱狂は2023年でピークを打った。 2024年の輸入量は約2万7,400トンと1割ほど減り、2025年はさらに約2万2,600トンまで落ちている。2年で四分の一以上の縮小だ。韓国メディアはすでに「ハイボールブームは終わったのか」と書いている。
もっとも、ここには続きがある。減ったのは主に、ハイボール用に大量消費されてきた安価なブレンデッドだ。輸入量の落ち込みに比べて金額の減り方は緩やかで、重量あたりの輸入単価はむしろ上がっている。裾野の熱は引いたが、残ったのはより本格的な——つまりシングルモルトを味わおうとする層である。国産のシングルモルトが立ち上がるには、実のところこちらの需要のほうが重要だ。
そしてその波に最も乗った一つが、日本のウイスキーだった。韓国向けの日本産ウイスキー輸出は長年伸び続けてきた。飲む市場が先に育ち、そこへ国産の造り手が後から現れた——韓国のウイスキーは、この順番で始まっている。
中国——世界の二大企業が、山に建てた
中国で起きていることは、規模がまったく違う。
ペルノ・リカールは四川省の峨眉山に「THE CHUAN(叠川)」蒸溜所を建て、2021年11月に披露した。投資額は10年間で10億人民元(およそ1億5,000万ドル)。国際的な酒類大手が中国国内に本格稼働のモルトウイスキー蒸溜所を持ったのは、これが最初とされる。名前の「叠」は幾重にも重なることを、「川」は四川と川そのものを指す。
最初の製品が発売されたのは2023年。ここは少し慎重に書く必要がある。この一本のラベルにあるのは「シングルモルト」ではなく**「ピュアモルト」**という表記で、なぜそう名乗るのかをペルノ・リカール自身は説明していない。業界メディアは、他の蒸溜所の原酒が含まれている可能性を示唆するのではないかと推測しているが、確かめられてはいない。原料には欧州産と中国産の大麦を使い、熟成にはバーボン樽・シェリー樽に加えて、中国東北部・長白山のオーク(モンゴリナラ)で作った樽を組み合わせている。ミズナラと同じコナラ属の近縁種で、ように、自国の木で個性を出そうという狙いが透けて見える。
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