なぜカナダのウイスキーは、「ウイスキーでないもの」を9.09%足しても年数表示が変わらないのか——食品の規格に無い数字が、酒税当局の回答に載っていた
カナディアンウイスキーは9.09%まで他の酒を混ぜられる、とよく言われる。だが食品としての規格に量の定めはない。数字が明記されていたのは酒税当局の文書で、しかも基準は液体の量ではなくアルコール量だった。
スーパーの洋酒売り場に、ずっと同じ顔で置かれている一本がある。カナディアンクラブ。隣にはクラウンローヤルの紫の袋。どちらも見慣れているのに、この二本が属する「カナディアン」というカテゴリーは、5大ウイスキーのなかでいちばん説明されないまま棚に置かれている。
そして説明されるときは、たいてい同じ一行がついてくる。「カナダのウイスキーは、9.09%まで他の酒を混ぜてもいい」。
本当だろうか。混ぜてよいのは何なのか。どこに、そう書いてあるのか。実際に探してみると、この数字はウイスキーの規格を定めた条文には見当たらず、まったく所管の違う役所の文書に載っていた。
「ライ」と呼ばれているのに、ライ麦が主役とは限らない
まず、もう一つの有名な話から。カナダでは今もウイスキーのことを「ライ(rye)」と呼ぶ。バーで rye and ginger と頼めばカナディアンウイスキーのジンジャーエール割りが出てくる。ところが中身の主原料は、多くの場合トウモロコシだ。
由来はこう説明されている。19世紀のオンタリオでは、製粉業者が余った小麦からウイスキーを造っていた。そこに少量のライ麦を加えると香りが立ち、評判がよくなった。やがて客は「ライの入ったやつをくれ」と言うようになり、その呼び名がカナダのウイスキー全般に貼りついたまま今日まで残った——つまり「ライ」は原料表示ではなく、150年以上前の売り文句が固まったものだ、というわけである。
もちろん、名前どおりの一本もある。クラウンローヤル ノーザンハーヴェストライは90%がライ麦で、ジム・マレー『ウイスキーバイブル』2016年版において、カナディアンとして初めて世界最高評価(97.5点)に選ばれた。マレーはこれを「カナディアン・ライに、まさしくライを入れた一本だ」という趣旨で評している。裏を返せば、それまでのカナディアン・ライにライがあまり入っていないことを、皆が知っていたということでもある。
穀物ごとに造り、別々に寝かせて、最後に混ぜる
カナダの造り方には、もう一つ他国と違うところがある。トウモロコシ、ライ麦、大麦、小麦を、それぞれ別々に発酵させ、別々に蒸留し、別々に樽で寝かせ、瓶詰めの直前にブレンドする。
大まかにいえば二種類の原酒がある。連続式蒸留器で高い純度まで上げた、軽くて素直な「ベースウイスキー」。そして蒸留の度合いを抑え、穀物の香りを残した「フレーバリングウイスキー」。前者が土台で、後者が味付けにあたる。
スコッチのブレンデッドが、別々の蒸留所で造られたモルトとグレーンを持ち寄って混ぜるのに対し、カナダでは一軒の蒸留所のなかで役割の違う原酒を造り分ける。カナディアンが「軽い」と言われるのは、この土台のつくり方にかなりの部分が由来している。
そして、9.09%まで「ウイスキーでないもの」を入れられる
ここに、あの数字が乗る。
着香の目的で加えるワインやスピリッツを、最終的にブレンドされたウイスキーに含まれる純アルコール量の9.09%——11分の1——までに収める。この範囲であれば年数表記を下げなくてよく、ラベルに書く義務もない。だから実務上、ここが上限として機能してきた。
ここで一つ、よく取り違えられる点がある。9.09%の基準は液体の体積ではなく、純アルコール量だ。ワインは度数14〜20%程度、ウイスキーは40%前後なので、たとえばシェリーを加える場合、アルコール量で9.09%に収めても、注いだ液体の量はそれよりかなり多くなる。「11本に1本」といった体積のイメージで捉えると、実際より小さく見積もることになる。
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