なぜワインの国フランスが、スコッチを年1億5,200万本も飲むのか——食前酒として注がれる一杯と、フランス企業が買ったスペイサイドの蒸溜所
フランスはスコッチの輸出先として数量・金額とも世界2位。2024年の数量を人口で割ると、日本の4倍以上にあたる。食前酒という習慣、フランス企業が育てたブランド、そして自国で始まったウイスキーづくりまでを追う。
ワインの国、コニャックとアルマニャックの国。フランスにそういう像を持っている人は多いはずだ。ところが現地のスーパーに入ると、酒売り場でいちばん長い棚を占めているのはたいていウイスキーである。フランスの酒類流通データによると、2024年に大型小売店で売れた蒸留酒のうち、金額で42.5%、数量で37.9%をウイスキーが占めた。ワインの国は、蒸留酒に関しては「ウイスキーの国」なのだ。
この記事では、まずフランスがどれだけスコッチを買っているのかを数字で確かめる。そのうえで理由を三つ——飲む時間帯、フランス企業が育てたブランド、原酒の押さえ方——に分けて見ていき、最後に、いまフランス自身が造り始めたウイスキーの話をする。
年1億5,200万本、数量でも金額でも世界2位
スコッチウイスキー協会(SWA)がまとめた2025年の輸出統計によると、スコッチの輸出は総額53億ポンド、700ml換算で13億4,000万本相当だった。数量の国別順位は、1位インド(2億2,000万本)、2位フランス(1億5,200万本)、3位アメリカ(1億2,000万本)。金額では1位アメリカ(9億3,300万ポンド)、2位フランス(4億400万ポンド)、3位インド(2億8,600万ポンド)。
フランスは数量でも金額でも世界2位。実は、首位に立ったこともある。SWAは2024年の統計で「インドがフランスから数量首位を奪い返した」と説明しており、2023年はフランスが数量で最大の輸出先だった。
なおこの数字は、あくまで英国からの輸出量である。フランス国内で何本空いたかを直接数えたものではない点は、断っておきたい。
面白いのは、この数字を人口で割ったときだ。フランスの人口は2025年1月1日時点で6,860万人(INSEE)。2024年の数量1億7,700万本をこの規模で割ると、赤ん坊まで含めて1人あたり年2.6本になる。同じ2024年、日本へのスコッチ輸出は7,400万本。人口を約1億2,400万人とすれば1人あたり0.6本ほどで、フランスにはその4倍以上が入っている計算になる(いずれも当サイトによる概算。2025年の統計では日本が上位に出てこないため、日仏の比較は同じ2024年の数字で揃えた)。数量1位のインドも、14億人で割れば1人あたり0.2本に届かない。
フランスの数字は、人口が多いから積み上がったものではない。飲む習慣そのものが濃いのだ。
ただし、勢いという意味では追い風ではない。フランス向けの数量は2023年に前年比15%落ちて1億7,400万本、間の2024年は1億7,700万本とわずかに戻したものの、2025年にふたたび14%落ちて1億5,200万本になった。2022年には2億本を超えていたので、そこからは大きく後退している。縮みながら、それでも世界2位に居座っている——というのが正確な現在地だ。
理由①:食後ではなく、食前に注がれるという習慣
その濃さを説明する最初の鍵として、しばしば挙げられるのが飲む時間帯である。
イギリスでも日本でも、ウイスキーはどちらかといえば食事の後、あるいは夜遅くの酒として扱われてきた。ところがフランスでは、食前酒(アペリティフ)として出てくるという見方がある。パリの専門酒販ラ・メゾン・ド・ウイスキーのディディエ・ゴルバンザデ氏は、英国のウイスキー業界サイトの取材に「フランスに特有なのは、ウイスキーを食前酒として飲むことだ。食後に飲むより、ずっとくだけている」と語っている。
これが本当なら、効いてくる度合いは小さくない。食後酒(ディジェスティフ)なら「一日の終わりに一杯」で終わるが、食前酒は人が集まればその都度注がれる。しかもフランスは家に人を招いて飲む習慣も強いと言われるから、食前酒としてのウイスキーは、そもそも登場する場面の数が違うことになる。
統計で裏づけられた話ではないので、ここは断定を避けたい。ただ、アペリティフに向くのは重く複雑な一本より氷と水で軽く飲める素直なブレンデッドで、実際フランスの棚はブレンデッド中心だ。この構造は、証言と矛盾しない。
理由②:フランス企業が育てたスコッチが棚を占めている
二つ目の鍵は、その棚に並んでいる銘柄そのものだ。ここには性格の違う二種類が混ざっている。
ひとつは、フランスで生まれてフランスで育ったブランド。フランスで最も売れているブレンデッドスコッチとされるウィリアム・ピールは、英国ではほとんど知られていない。1964年にフランスの実業家ベルナール・マグレスが立ち上げ、2005年にマリー・ブリザール社が取得。現在の保有主体は、その後身にあたるマリー・ブリザール・ワイン&スピリッツ(MBWS)だ。ラベル5も同じ型で、1969年にフランスの酒類グループ、ラ・マルティニケーズが立ち上げ、まずフランスで支持を集めてから世界へ広がった。いまでは100か国以上で売られている。
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