なぜシェリー樽の一本は高いのか——「バーボン樽の10倍」を700mlに割り直すと、差は1本あたり150円ほどだった
「シェリー樽はバーボン樽の10倍高い」とよく言われる。出どころを追うと、いちばん安い中古樽といちばん高い新樽を並べた数字だった。ボトル1本ぶんに割り直せば、差は30円足らずから150円ほどにしかならない。
酒屋の棚で、同じくらいの熟成年数の二本が、まるで違う値段で並んでいることがある。片方はバーボン樽で寝かせた一本、もう片方はシェリー樽をうたう一本。後者のほうが数千円高い、という光景は珍しくない。
その理由としてよく語られるのが「シェリー樽はバーボン樽の10倍高いから」という一文だ。愛好家のあいだでも、店頭の説明でも、まるで定説のように流通している。
では、その10倍という数字はどこから来ているのか。出どころをたどってボトル1本ぶんに割り直してみると、樽代は棚の値段差を説明するには小さすぎる金額だった。
「10倍」を作っているのは、50ポンドと500ポンドである
まず、樽の値段そのものを見ておきたい。オーストラリアのウイスキー専門メディア Whisky & Wisdom は、スコッチ業界の年次資料スコッチ・ウイスキー・インダストリー・レビューが2019年に公表した2020年の予測値として、次の数字を引いている。
- リフィル(二度目以降)のバーボン・ホグスヘッド……約50ポンド
- ファーストフィル(一度目)のバーボン・ホグスヘッド……約200ポンド
- ファーストフィルのシェリー・ホグスヘッド……約250ポンド
- ファーストフィルのシェリー・バット……約500ポンド
この四つを眺めると、「10倍」がどの二つを並べた数字なのかがはっきりする。いちばん安い50ポンドと、いちばん高い500ポンド。この組み合わせだけが、ちょうど10倍になる。
なぜシェリー樽のほうが高くつくのかについては、なぜ現代のシェリー樽は、わざわざシェリーで「仕込まれる」のかで書いた。ごく短く言えば、いまのシェリー樽の多くは「ウイスキーを寝かせるために、わざわざシェリーを注いで仕込んだ樽」であり、その仕込みに使ったワインには行き先がほとんどない。捨てるか、蒸留するか、酢に回すか。その分が樽の値段に乗っている。
その二つは、大きさも、使用歴も違う
ただし Whisky & Wisdom は、この比べ方そのものに釘を刺している。10倍という倍率は、250リットルの中古樽と、500リットルの新しい樽を並べたときに出てくる数字だ、と。
樽の大きさは種類によってかなり違う。
- バレル(アメリカン・スタンダード・バレル)……約200リットル
- ホグスヘッド……225〜250リットル
- バット……475〜500リットル
50ポンドのほうは250リットルで、しかも一度ウイスキーを寝かせたあとの樽だ。500ポンドのほうは500リットルで、ウイスキーを入れるのはこれが初めてになる。入る量が2倍あり、木の状態も違う。同じ土俵に乗せた比較ではない。
樽の名前と大きさの関係については、なぜウイスキーの樽は、いまも「豚の頭」と呼ばれるのかにまとめてある。
条件を揃えると、倍率は一気に下がる
同じ予測値の中で、大きさも使用回数も揃えて比べてみる。どちらも250リットル、どちらもファーストフィルなら、バーボンのホグスヘッドが約200ポンド、シェリーのホグスヘッドが約250ポンド。1.25倍である。
予測値より後の実勢も見ておきたい。同じ Whisky & Wisdom が、記事のために連絡を取ったスペイサイドのある蒸溜所が実際に支払っていた額として、ファーストフィルのシェリー・ホグスヘッドが約650ポンド、シェリー・バットが約1,200ポンド、ファーストフィルのバーボン・バレルが約250ポンドという数字を挙げている(同記事は2021年に公開され、2025年に更新されている)。先の予測値とは時点が違うので混ぜて割り算はできないが、この三つのあいだで1リットルあたりに直すと、バーボンが約1.25ポンド、シェリー・ホグスヘッドが約2.6ポンド、シェリー・バットが約2.4ポンド。2倍前後だ。
10倍ではない。条件を揃えるほど、倍率は下がっていく。
700mlのボトル1本に、樽代はいくら乗るのか
では、いちばん知りたいところを計算してみる。前提を先に置く。
- スコットランドでの目減り(天使の分け前)は年およそ2%、熟成は12年とする
- 樽詰めの度数は63.5%、12年後の樽出しをおよそ57%と仮定
- 瓶詰めは40%、1本700ml
- ホグスヘッドは250リットルとして計算する(225リットルなら1本あたりの樽代は1割ほど上がる)
- 1ポンド212円で換算する。ただし上の樽の値段はいずれもポンド建ての当時の額なので、当時のレートで換算すれば円の数字は変わる
「10倍」のペアを、そのまま割り直す
リフィルのバーボン・ホグスヘッド(250リットル・50ポンド)。12年で残るのは約196リットル、その中の純アルコールが約112リットル。40%に加水すると約280リットルになり、700mlのボトルにして約400本。50ポンド(約10,600円)を400で割って、1本あたり。
このコラムの関連
関連するボトル

The Balvenie DoubleWood 12 Year Old
🏴 スコットランド ・ バルヴェニー蒸留所 ・ シングルモルト ・ 12年 ・ 40%

The GlenDronach 12 Year Old Original
🏴 スコットランド ・ グレンドロナック蒸留所 ・ シングルモルト ・ 12年 ・ 43%
次に読む

なぜウイスキーの生産量は「純アルコール」で数えるのか——「年1,500万リットル」はボトル何本分? 税金と度数が決めた物差し
蒸溜所の「年間生産能力1,500万リットル」は、瓶に詰める液体の量ではない。水を除いた純アルコール(LPA)の量だ。度数が工程ごとに変わり、税金も純アルコールに掛かるから。ボトル本数への換算法と、日本の酒税との意外な共通点まで解説する。

バーボン樽熟成ウイスキーのおすすめ5選——バニラの甘さは「何回目の樽か」で変わる。樽の甘さ・素顔・煙で選ぶ
スコッチの多くを支えるのに、ラベルではあまり目立たない「バーボン樽」。バニラやココナッツの甘さがどこから来るのか、ファーストフィルとリフィルで何が変わるのかを整理し、オーヘントッシャン アメリカン・オークからラフロイグ10年まで、樽の甘さ・蒸溜所の素顔・煙の3つの軸で5本を紹介します。






