氷点下30度にさらすか、地下50メートルに隠すか——北欧のウイスキーは、スコッチの北の分家ではなかった
スウェーデン、デンマーク、フィンランド。5大ウイスキーの外側で育った北欧の造り手は、寒さへの答えも原料も割れている。サウナで生まれたライ麦のウイスキー、店じまいした肉屋から始まった蒸溜所。北欧ウイスキーの輪郭をたどる。
ウイスキーの世界地図には、長いあいだ五つの名前しか書かれていなかった。スコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、日本。近年はその外側から、台湾やインド、オーストラリアといったニューワールドの造り手が上がってきている。
ただ、その新世界のリストからもこぼれ落ちがちな一帯がある。北欧だ。
寒すぎて熟成が進まない土地、と思われているのかもしれない。だが実際に蒸溜所を並べてみると、話はもっと入り組んでいる。彼らは「寒さをどう扱うか」で、真っ二つに割れているからだ。
同じスウェーデンで、正反対の答えが出た
スウェーデン北部、北緯63度。オンゲルマン川のほとりに建つハイコースト蒸溜所(旧ボックス)は、熟成庫に空調を入れない。
蒸溜所自身の説明によれば、冬は氷点下30度まで下がり、夏はそこから60度近く暖かくなる。年間およそ60度の振れ幅の中に、樽をむき出しのまま置いているわけだ。気温が上がれば樽の内圧が上がって液体が木に押し込まれ、下がれば木から戻ってくる。その往復を、彼らは熟成の推進力として使う(暖かい土地ほど熟成が速く進む理由は別記事で詳しく書いた)。
すぐそばを流れるオンゲルマン川は、一年の多くを通じて水温が氷点を数度上回る程度だという。この冷たさを冷却に使えるのも、北の立地ゆえの利点だ。その川の水で冷やした原酒が、標準ラインの一本になる。
ところが同じスウェーデンに、正反対を選んだ蒸溜所がある。
1999年創業のマックミラ蒸溜所は、熟成庫の一部を地下50メートルの旧ボーダス鉱山に置いた。100年以上にわたって鉄鉱石を掘り、1973年に閉じられた坑道である。ここは季節に関係なく、年間を通じて7度前後で安定している。
片方は振れ幅を最大化し、片方は振れ幅をほぼ消した。車で4時間、道路距離にして300キロあまり離れた同じ国の2軒が、寒さについて逆の結論を出している。北欧のウイスキーを「寒い土地の酒」と一括りにできない理由が、ここにある。
サウナで、「なぜライ麦のウイスキーがないのか」
原料でも、北欧はスコッチの写しを作らなかった。
フィンランドのキュロ蒸溜所は、2012年にサウナで生まれている。五人の友人がライウイスキーを飲みながら、ライ麦パンの国であるフィンランドで、誰もライ麦のウイスキーを造っていないことに気づいた——というのが、彼ら自身が語る創業の場面だ。同年8月に会社を興し、イソキュロの古い乳製品工場を拠点として、2014年に自前の蒸溜器で初留にこぎつける。
彼らのウイスキーは、麦芽にした100%のライ麦で仕込まれる。ライウイスキーそのものはアメリカの伝統だが、ヨーロッパでこの構成は珍しい。
ライ麦は、大麦より寒さと痩せた土地に強い穀物だ。北欧や東欧の主食パンを長く支えてきた。「地元にあるもので酒を造る」という発想に素直に従えば、この土地ではライ麦にたどり着く。事実、ヘルシンキの造り手も、のちに100%ライ麦の麦芽で仕込んだ一本を出している。
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