同じ銘柄なのに、前の一本と味が違う——それは気のせいか、本当にロットが違うのか
「前に買ったときはもっと美味しかった気がする」。同じラベルの一本で起きるこの感覚を、造り手の側の事情(バッチ・樽・仕向地・年数表記)と、飲み手の側の条件(酸化・保存・グラス・体調)に切り分けて確かめる。
前に買ったときは、もっと美味しかった気がする。
同じ銘柄を二本目、三本目と買い続けている人なら、一度は思ったことがあるはずだ。ラベルも度数も同じ。値段もほとんど変わらない。それなのに、記憶の中の一杯と、いま手の中にある一杯が、どうも噛み合わない。いわゆる「ロットが違うのでは」という疑いである。
この違和感には、大きく二つの出どころがある。ひとつは瓶の中身が本当に違う場合。もうひとつは中身は同じで、こちら側の条件が変わっている場合だ。厄介なのは、この二つが見分けにくいことで、たいていの人は「気のせいだろう」と流してしまう。
だが、どちらなのかは切り分けられる。そして中身が本当に違う場合なら、その理由はラベルに小さく書かれていることが多い。
定番ボトルは「毎回同じ味」を目指して造られている
ウイスキーの樽は、一つとして同じものがない。同じ蒸溜所で、同じ日に樽詰めした原酒でも、樽材の個体差、その樽に以前入っていた酒、熟成庫のどこに置かれたかで、数年後には別の顔になる。そのウイスキーを一度目に詰めた樽(ファーストフィル)と、二度目・三度目に使う樽とでは、木から出てくるものの量がそもそも違う(ファーストフィルとリフィルの違い)。同じ建物の中ですら、床に近い樽と天井に近い樽では育ち方が変わる(熟成庫の違いで味が変わる理由)。
だから定番のボトルは、一樽ずつ瓶に詰めたりしない。数十から数百の樽をまとめて合わせてから瓶詰めする。個々の樽の凸凹は、この段階で互いに打ち消し合う。
そしてその配合を毎回調整しているのがブレンダーだ。彼らの仕事は、新しい味を作ることより、去年と同じ味を今年も出すことのほうに比重がある(マスターブレンダーという職人)。原酒の在庫は年々入れ替わるのに、棚の一本はいつも同じ顔をしていなければならない。その当たり前を支えているのが、この職能である。

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