デュワーズは、日本での伸び方が突出している。輸入元のバカルディジャパンが2025年春に明らかにした2024年の実績では、デュワーズの国内販売は直近5年で2.5倍に伸び、スコッチウイスキーの国内販売金額で第1位に立った。2011年からサッポロビールと組んで販売網を広げてきた積み上げの結果だという。日本の棚でこれほど見かけるのには、相応の背景がある(そこに至る経緯はデュワーズが日本のハイボールの定番になった話に詳しい)。
一方のジョニーウォーカーは、はじめから世界を相手にしてきた。1950年代半ばに世界で最も売れるスコッチの座に就き、以来その位置を守り続けている。年間の出荷は2,000万ケース規模。スコッチという酒を世界の棚へ運んだのは、事実上このブランドだった(この一強ぶりの理由はジョニーウォーカーが世界一売れるスコッチである理由へ)。
なお、どちらの数字もブランド全体のもので、ホワイトラベル単体・レッドラベル単体の成績ではない。それでも、両ブランドの定番の中心にあり、いちばん手に取られやすいのがこの二本であることは変わらない。棚に並ぶこの二本が、それぞれの看板の顔だと考えていい。
同じ40%でも、二本が目指しているものは違う。
デュワーズ ホワイトラベルは1899年、同社初代マスターブレンダーのA.J.キャメロンが組み上げた。公式の説明では最大30種のモルトとグレーンを使い、五つの自社蒸溜所の熟成原酒を後ろ盾に持つ。味の芯を担うのは、ハイランドのアバフェルディ。1896年に着工し1898年に稼働したこの蒸溜所は、そもそも「デュワーズのブレンドの心臓となるモルトを造るため」に建てられたものだ(詳しくはアバフェルディがデュワーズの心臓と呼ばれる理由へ)。
そしてデュワーズが看板に掲げているのが「ダブルエイジド」である。ブレンドしたあと、もう一度オーク樽に戻して寝かせる工程を踏む。原酒どうしがなじみ、口当たりの角が取れる——狙いは、なめらかさを足すことにある。
念のため補っておくと、ブレンド後に寝かせる工程(マリッジ)自体は、ブレンデッドスコッチでは広く行われている。規則で義務づけられた工程ではないぶん、短く済ませる造り手もあれば数か月置く造り手もある、という幅があるだけだ。デュワーズが際立っているのは、それを商品名の隣に置くほど正面から看板にしていることのほうである(寝かせる期間について公式サイトは数字を出していない。小売店の商品説明では半年ほどとされることが多い)。
ジョニーウォーカー レッドラベル(通称ジョニ赤)の設計は、真逆を向いている。ブランドは、最大35種の原酒を使うこと、そのなかにカーデュ、カリラ、キャメロンブリッジ、ティーニニックが含まれることを公表している。スペイサイドのカーデュが甘さの土台を、アイラのカリラが煙の筋を、グレーンの大手キャメロンブリッジが全体を伸ばす軽さを、ハイランドのティーニニックが青草を思わせるグラッシーな輪郭を添える——おおよそそういう見取り図になる(配合比率は非公開なので、あくまで役割の概略である)。カーデュがこのブランドの故郷になった経緯はカーデュの記事にまとめた。
そして公式が前面に出すのは、シナモンと黒胡椒を思わせるスパイシーさだ。日本語の公式ページも、どんな割り方をしてもそのスパイシーさが通る、という趣旨で紹介している。炭酸で1:3にも1:4にも薄めて、なお消えない輪郭を残す。これがレッドラベルの設計思想である。
要するに、デュワーズは角を取る方向へ、ジョニ赤は角を残す方向へ、それぞれ振ってある。
レッドラベルのキーモルトとしてタリスカーの名を挙げる記事は、日本語・英語を問わず多い。ただしブランド自身が名前を出しているのは、前節で挙げた四つである。
タリスカーがジョニーウォーカーの原酒供給元であることは事実で、とくにブラックラベル以上の煙とスパイスを語るときによく引かれる。ただ「赤の芯はタリスカーだ」と言い切れる公式の裏づけは見当たらない。そもそも配合比率はほとんどのブランドが非公開なので、この手の話は「そう説明されることがある」くらいに受け取っておくのが安全だ。赤と黒の関係そのものはジョニーウォーカー 赤ラベル vs 黒ラベルにまとめている。
ブランドと輸入元が公表しているノートを並べると、主役になる要素の違いが見えてくる。
- デュワーズ ホワイトラベル——フローラルな香りに、ヘザーとハチミツ。口当たりはスムースでクリーン、フレッシュバニラとわずかな洋ナシ。ほのかな甘さにスモークが乗る、バランスのよい余韻。
- ジョニーウォーカー レッドラベル——シナモンと黒胡椒を思わせるスパイス。一撃が開いていくような勢いがある。
公表ノートにはないが、レッドラベルは構成にカリラが入るぶん、余韻に薄い煙の気配も残る。方向性を一言でいうなら、デュワーズはまろやか、ジョニ赤は元気だ。どちらが上という話ではなく、口の中で何が主役になるかが違う。
デュワーズは、薄めても口当たりの丸さが残る。蜂蜜のような甘さが炭酸に乗ってくるので、ウイスキーの刺激が苦手な人や、食事と一緒に長く飲みたい人に向く。1:3から1:4くらいまで薄めても、味が痩せずにまとまってくれる。
ジョニ赤は、同じ濃さで作ると、甘さより先にスパイスと煙が立ち上がってくる。炭酸に負けない一杯が欲しいとき、レモンを搾ってキリッとさせたいときはこちらだ。ジンジャーエールで割っても輪郭が消えないのは、この強さゆえである。
割り方の基本そのものはハイボールに合うウイスキーの選び方に整理してある。
- 家のハイボールを、飲み飽きないまろやかな一杯にしたい → デュワーズ ホワイトラベル
- 炭酸やジンジャーエールに負けない、香りの立つ一杯がいい → ジョニーウォーカー レッドラベル
- ロックやストレートでも様にしたい → デュワーズ(加水なしでも丸さがそのまま効く)
- カクテルのベースにしたい → ジョニ赤(輪郭が残るぶん、味を組み立てやすい)
- そこからもう一段の深みが欲しくなったら → ジョニーウォーカー ブラックラベル(いちばん若い原酒が12年以上と決まっている一本。色ごとの違いはジョニーウォーカーの種類と選び方へ)
同じ価格帯のスコッチをもう一本足して比べるならバランタイン ファイネスト vs デュワーズ ホワイトラベル、日本のウイスキーと比べるならデュワーズ vs 角瓶が、それぞれ対になる記事だ。
最後にひとつ。いま棚に並んでいるこの二本の味に責任を負っているのは、どちらも自社史上初の女性マスターブレンダーである。
デュワーズは、2006年7月に就任したステファニー・マクラウド。170年の社史で7人目のマスターブレンダーであり、女性としては初めてだった。ジョニーウォーカーは、20年その職にあったジム・ベヴァリッジ博士の退任にともない2021年10月に指名されたエマ・ウォーカー博士。ディアジオは彼女を「200年のジョニーウォーカーの物語で初の女性マスターブレンダー」と紹介している。
棚に並ぶこの二本が、どちらもいま自社史上初めて女性に味の舵を委ねている——覚えておいていい事実だと思う(この職能そのものについてはマスターブレンダーという仕事へ)。
同じ40%、同じ棚、ほぼ同じ値段。それでもデュワーズ ホワイトラベルはブレンドのあとにもう一度寝かせて角を取る設計、ジョニーウォーカー レッドラベルは割っても消えない輪郭を残す設計と、向いている先が違う。
まろやかに長く飲みたいならデュワーズ、割っても香りに芯が欲しいならジョニ赤。どちらも手の届く価格帯なので、迷ったら両方買って、同じ濃さのハイボールで飲み比べてしまうのがいちばん早い。棚の前で悩む10分より、並べた二杯のほうが多くを教えてくれる。
同じグレンフィディック12年が、英国の高級スーパーでは£44、日本では3,960円から。価格差5,500円のうち税で説明できるのはどこまでか。日英の酒税を一次資料の数字で分解し、スコットランドの最低単価規制まで確かめる。